期待が集まるエレクタ社

大島哲蔵

Dominique Perrault: Progetti e architetture, Electa, 2000.

Francesco Venezia: L'architettura, gli scritti, la critia, Electa, 1998.

AntonioMonestiroli: Opere, progetti, studi diarchitettura, Electa, 2001.

Dom Hans van der Laan, Electa.

これから私と私のまわりの読書好きの者が、毎月この書評欄を担当することになった。新刊の洋書を中心にして、出版界の動向と建築のトレンドを連動させて話題提供できればと考えている。

初回はイタリアの美術書をリードしているエレクタ社の主力シリーズ「documenti di architettura」の新刊書を中心に紹介してみたい。同シリーズの既刊は140タイトルに手が届こうという勢いで、毎年5〜6タイトルが新たに追加されていく。以前のフォアマットは22×24㎝で約150ページ、ペーパーバックでハンディな編集となっていたが、最近は版型が22×28㎝と縦長に改まり頁数も200ページ前後に拡大されている。内容は近現代の作品集が中心だが、歴史研究や評論が一部含まれている。テキストがイタリア語のみというのが残念だが、図版中心の編集なので言葉のハンディはそれ程気にしないで済む。各国の建築書に力を入れている書店には、それぞれに選抜された同シリーズがパラパラと置いてあるのが常である。とくにイタリア各地の一般書店の棚にも、同じくらいの同シリーズが並べてあり、知識層はもちろん稀に一般市民も買い求めているのではないだろうか。

まず『Dominique Perrault Progetti e architetture』(NO. 132, 2000,¥7,800)から始めてみよう。ぺローの作品集は数年前に出た『With:Dominique Pe-rrault』(Birkhauser, ¥10, 600)が一般的だが、エレクタ版にはこれに含まれていなかった「第二国立図書館」以降のプロジェクトが多数含まれている。序文はLau-rent Stalderが書いているが、例によってミニマリズムのアートワークと彼の作品との並行現象を解説している。ペローがプロジェクトをスタートするに当って、こうしたアナロジーから始めるのは事実だから妥当な線と言えるが、そろそろ作家も評者も新しい切り口を用意する時期だとも思う。「解り易いパターン」を予め提供するのは結構だが、単に相似的というのでは芸がなく、より突っ込んだコンセプトを「解り易く」展開する方法が求められるし、その方向を両者が試行/論述するところから新しいフェーズが始まると思われる。

ここ数年間に構想された計画案(プロポーザルやコンペ案など)はどれもよく似ている。基本的にガラスの箱が象徴的に置かれるか、互いに折り重なり、それに樹木や地表面、そしてイルミネーションが細かい差異を付加して既存のコンテクストが一新されている。実現に持ち込まれる割合いが少ないのが気になるが、そういうことは余り気にしていないのがこの人らしい。確かに二次元のヴィジュアルでは表現されないリアリティが問題なのだ。独特のモデルで表現されたそれは「水ようかん」のように見え、とてもおいしそうだ。このモデルと実際に建物がどのように実現するかには相当な開きがあり、ぺローの力量はその開きを埋めるプロセスで発揮されることが実証済だが、紙上の段階で手法やイメージをもっとリアルに示す必要があるかもしれない。というのもMVRDVのグラフィックなどでは、その点がかなり具体的なイメージやストーリィをまとって提示され、それが人々の注視と好奇心を刺激しているように思われるからだ。あるいはオランダの事務所はヴィジュアルをサービス精神旺盛な小集団(コンピュータ・フリーク)に外注するようだから、その辺の差が出ているのかも知れない。もちろんこのことは主に「本の売れ行き」についての話で、ペローは、亡くなったイヴ・ヴリュニエばりのイメージ(『Yves Brunier, Landscape architect』1996. Birkhauser, ¥8, 100)を意識しているのだから、しょせんゴールが違うとも言える。

ペローが空間の細かい味付けを犠牲にしてしまうのは、案外彼が真正のポストミニマリストとして振る舞おうとしているからかも知れない。初源的形態とそれを支える構造を明示しようとすれば、付随的な要素は捨象されるべきだろう。こうして彼の空間はチマチマした外部/内部のデザイン処理から自由でいられるが、その反面で「大味な空間」となるリスクを常に背負っている。従って彼が素材とか家具、外構に力を入れるのは、その辺りの「補償作用」が働いている面がある。そして実際に、都市的な広がりの中で彼の建物をオブジェとして既存のコンテクストに挿入する段階で、「都市的なインスタレーション」としての戦略全体が完結する。この最期のレベルを含めると、ぺローの行き方はかなり点が高くなるというのが評者の見解である。

エレクタ社の同シリーズに含まれる他の出版で目ぼしいものを挙げておくと、まずNo. 128の『Dom Hans Van der Laan』(再版¥6, 600)が注目に値する。彼はオランダの聖職者でストイックな建築をごく少数設計し、時代錯誤ながらも近代オランダ(スーパーモダン)の反措定を体現していたと思われる。またNo、130の『Luigi Moretti』(2000, ¥7, 800 イタリアの戦前、戦後に活躍した作家でスタイリッシュな作風)の評判が良いし、No. 132の『Carlo Scarpa e Edoardo Gellner』(2000, ¥7,200 スカルパがゲルナーと共働して山中に建てた教会の特集)も興味深いものだった。

ここでは同シリーズの最新刊の一つ、『Antonio Monestiroli. Opere, progetti, studi diarchitettura』(2001, ¥8, 200)に言及しておこう。モネスティロ-リは1940年生まれでアルド・ロッシの助手をしていた。一見するとロッシにそっくりで驚かされるが、よく見ると同じロッシの弟子筋に当るジョルジュ・グラッシにもっと近いかも知れない。ロッシが亡くなってしまった現在、こういう形でその衣鉢を継ぐ人が活躍するのは心強い。考えさせられるのは、この人も墓地の仕事が多いことで、図面のトーンは決して暗くはないが、明らかに「死」に向かって造形している。これでは実現作が少なくなるのも無理ないが、彼の作風は押しても引いても動じないままにフリーズしている。 マネスティローリは沈思に結びつく「壁体」をデザインしているようで、実はそこに濃密な影を落とすことに努力がはらわれている。とくに鋭い突起物がアクセントになっていて、それが形作る影が日時計のように壁の上を緩慢に移動して行く。直立不動の彼の意匠で唯ひとつ呼吸しているのがこの要素と言え、イタリアの墓地で一般的な糸杉が表象する観念とも連動していよう。レンゾ・ピアノに代表される北部イタリアの進歩主義に対して、南部イタリア(そしてヴェネチア)のアンチ・モダニズムがNo. 114の『Francesco Venezia L'architettura, gli scritti, la critia』(1998, ¥8,200)そしてNo. 133の『Franco Purini Le opere, gli scritti, la critica』(2000, ¥8, 200)から遺憾なく示されている。ちなみにフランチェスコ・ヴェネチアはナポリを地盤とする興味深い作家----代表作はシチリアのジベリーナに建つ震災ミュージアム----で、イタリアのこの間の文化的停滞----それは日本の不振をも上回っている----が無かったなら、ロッシやスカルパの後継者となっていたはずの逸材と言えよう。フランコ・プリーニは70年代にマッシモ・スコラーリと並んでアンビルト作家として鳴らした人で、知る人ぞ知る土着派だが同時に高いインテリジェンスを感じさせる。このシリーズが新進作家や話題作を意欲的に取り上げ、国際的なフィールドに押し上げてきた功績は大きい。しかし今や新鮮な作風をのびのびと展開する余地は、どの国でも封じられている事実がある。知的エリートのステイタスが珍しく残存しているイタリア社会を背景にしているからこそ、こうしたシリーズを維持することが可能だった。しかしそれもスカルパやロッシそしてぎりぎりピアノの世代までのことだろう。イタリアの文化分野で強い影響力を持つ同社一親会社のモンダドーリ社はニーマイヤに本社屋(ミラノ)を発注している一がこれまで以上のリーダーシップを発揮することが今や求められている。

[おおしま てつぞう・建築批評家]


200108

連載 海外出版書評|大島哲蔵

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