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モスクワ、シャボロフカ街のシューホフ・ラジオ塔の運命に関するプーチン大統領への公開状

モスクワにおける近代技術の盛華ともいうべき構造物の存亡の危機にレム・コールハースら世界中の建築家、構造家らがアピール。日本からも安藤忠雄、伊東豊雄、川口衞氏などが加わっている。日本からも更なる支援の声を。

以下に掲載するロシアのプーチン大統領へのアピールは、設計者の名前から「シューホフ・タワー」とも呼ばれるモスクワのラジオ塔の取り壊しに反対するもので、世界中の建築家、構造家、研究者、歴史家などが賛同の署名を寄せている。レム・コールハース、トム・メイン、エリザベス・ディラー、ヘンリー・コブ、フィリス・ランバート、ロビン・ミドルトン、スタニスラス・モースなどがそれで、日本からは安藤忠雄、隈研吾、妹島和世、西沢立衛、川口衞、金箱温春、新谷眞人、アラン・バーデン、佐々木睦朗、元結正次郎、竹内徹などの諸氏が参加されている。保存運動の中心的な人物はシューホフの同名の孫ウラディミール・シューホフ氏、そしてイギリスの写真家リチャード・ペア氏(ロシア・アヴァンギャルドの現存の建物を撮影した写真集『The Lost Vangard』があり、「シューホフ・タワー」はその表紙を飾っている)及びフランスの建築史家ジャン=ルイ・コーエン氏である。このタワー及びその保存運動の意義についてはアピール文を見ていただくことにして、私の所にペア氏からの賛同依頼が来たのは三月の上旬である。私にとってはモスクワに赴くたびに必ず見に行ったのがこのタワーであり、一も二もなく賛同し、至急に何人かの建築家及び構造家に支援をお願いした。とりわけ代々木のオリンピック室内競技場の構造設計者である川口衞先生からは国際的な構造家の組織を紹介されたりして、支援はまたたく間に世界中に広がった。しかし、現実の進行はそれ以上に早く、三月最終週にはロシアの国会にこの議題がかけられるという。折悪しくロシアはウクライナ/クリミア問題に揺れている。たかが文化遺産にすぎないタワーにどれだけの注目が集まるかはわからない。しかし、それがわれわれの領分なのだ。声なき声とても挙げなければ声ではない。
文:八束はじめ

1922年創建当時のシューホフ・ラジオ塔

モスクワ、シャボロフカ街のシューホフ・ラジオ塔の運命に関するプーチン大統領への公開状

2014年3月13日

尊敬するウラディミール・プーチン大統領閣下

2014年2月25日に、ロシア・テレビ・ラジオ国家放送委員会は、技師ウラディミール・シューホフの設計により1922年に竣工したシャボロフカ街の名高いラジオ塔の取り壊しに同意致しました。メインテナンスの不備により構造の表面に生じた否定的な効果はあるとしても、危険があるという決定的な証拠も示されることはありませんでした。その設計者・建設者であり、一般的にロシアにおけるギュスターヴ・エッフェルと目されるウラディミール・シューホフの天才によって、この近代建築技術の最上の作品は、その構造上の革新とモスクワ市のシンボルとして時の試練に耐えてまいりました。

初期ソヴィエトの無線放送のために建てられたこの電波塔は、19世紀におけるシューホフの双曲面の探求から展開されたもので、全ロシアにわたって、同じ基本形式に基づく給水塔や送電塔、灯台などが何百と作られております。その構想の輝かしさのために、この設計は米海軍の弩級戦艦の監視・伝送用のマストの構造にも取り入れられました。シャボロフカ・ラジオ塔は、このような構造物のうち建造された最大のものであり、ウラディミール・シューホフを記念する傑作として残されております。それはモスクワの象徴の一つであり、また20世紀の最上の技術的な業績の一つとして、世界の技術的、建築的アイデアに広く影響を与えつづけています。しかし、技術及び建築のあらゆる歴史書に取り上げられているこの傑作は、今や新しい建物によって置き換えられるべく取り壊しの脅威に曝されています。投機的なディヴェロッパーが、現行の計画規制では、如何なる場所においても、それ以上の許可なくして既存の構造物と同じ高さのものを建設出来るという機会を利用しようとしております。このラジオ塔の敷地の含まれるモスクワの中央部の大部分では、9階、約25メートルの規制がありますが、150メートルのこのタワーがもし建て替えられることになれば、50階建てが可能となり、現代のヘロストラトゥス(功名心にはやって古代ギリシャで世界の七不思議の一つのアルテミス神殿に放火した人物)にとって絶好の機会を提供することになります。

このタワーを解体してその部材を後の再建のために保存するというようなことがあり得たとしても、結局再建自体の保証がないままでは著しくリスキーなことと言わなくてはなりません。最も肝要なことは、このタワーが、初期の英雄的なソヴィエト期の傑出した住宅地計画であった周辺のシャボロフカ街とのつながりが、そしてモスクワのパノラマと都市景観におけるキー・コンポーネントとしての機能が失われてしまうということであります。別の場所に移築されるというようなことがあったとしても、その歴史的な意義や都市的な文脈は失われてしまいます。尊敬するプーチン大統領閣下、われわれは、ロシアの技術的な天才が世界の文化に対してなしたユニークな貢献でもあり、モスクワにとって不可欠なこの遺産の保存に向けての即座的な手続きをとっていただくよう請願するものであります。解体ではなく、この傑作を国際的な基準に沿って慎重に保存し、ユネスコの世界遺産として登録していく緊急の必要性があるのです。この重要性は何十年にもわたって国内外の専門家達によって議論されてきました。この偉大な構築物が進歩し将来を希求する文明の光でありシンボルとして残存を許されることを保証していただきたいのです。(八束訳)

署名参加希望者は、以下のサイトを
http://theconstructivistproject.com/shukhov-tower-sos

シューホフ・ラジオ塔近影




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