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特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

江渡浩一郎

●A1
まず、自分が関わった仕事について紹介する。

磯崎新「都市ソラリス」展
現在、NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)で磯崎新「都市ソラリス」展(http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2013/ISOZAKI_Arata_SOLARIS/index_j.html)が開催されている。これは、磯崎新のこれまでの建築や都市計画に関わる資料が展示される展覧会であり、同時にメディア・アーティストとの共同制作による新作も展示されている。

この展覧会に先立つ2月24日(日)の「〈都市〉はアーキテクチャか?」(http://www.ntticc.or.jp/Archive/2013/ICC15/index_j.html)と題するシンポジウムで、私は、磯崎新氏、高山明氏、浅田彰氏、羽藤英二氏とともにパネル登壇した。

建築を意味する「アーキテクチャ」という言葉は、現代ではコンピュータ上のシステムの基本設計を表わす言葉として使われるようになった。この現状を踏まえて、逆に建築におけるアーキテクチャ、さらには建築の集積である都市をアーキテクチャとして捉えることができるのか、というテーマのシンポジウムである。

私は「ニコニコ建築の可能性」と題する発表を行なった。これまで「ニコニコ学会β」というユーザー参加型イヴェントを開催してきたが、それが定常状態として発展し、さらには都市レベルにまで拡大する可能性について検討した。アレグザンダーが指摘するように、都市は長い年月を経て多数の住民が参加することによって、ツリー構造ではなくセミラティス構造を備えるに至る。そのような住民参加、すなわち「ユーザー参加」をより積極的に都市設計に取り込んだ計画として、コンスタント・ニーヴェンホイスによる「ニューバビロン」(1957)が考えられる。しかし、実際にはニューバビロンは都市計画として実現されることはなかった。

では、そのような「ユーザー参加型都市」を現代に実現している事例はあるだろうか。私は「バーニングマン・フェスティバル」がその実例だと思う。バーニングマンは、アメリカ・ネバダ州の砂漠に毎年1週間だけ「ブラックロック・シティ」という架空の都市を作り、そこに約5万人の人が集まるイヴェントである。
「No spectator」(傍観者になるな)がスローガンであり、貨幣経済は禁止され、贈与経済が共同体を成立させている。自己表現が貨幣の代わりとなり、人々は自分自身の創造性をその対価として支払う。絵を描く、彫刻を作る、踊る、唄う、何をやってもいい。そのような自己表現が対価となる世界である。

このような個人の創造的な行為を基盤とした都市が成立する可能性、さらには独立した国家へと発展していく可能性について妄想し、そのような国家の理想像を仮に「ニコニ国家」と名付け、未来の可能性として提示した。

結果として、議論はあまり噛み合わなかった。磯崎氏はまさしく現実の都市計画を主導する都市計画家である。都市計画の基本は治水であり、どこに川や道を引くのかのグランドデザインが起点となる。そのような基本的な都市計画の考え方と、私自身の考えをどのように接続するか、その点を私自身があまり考えていなかったことが原因である。とはいえ、磯崎新氏、浅田彰氏と直接議論させていただいたのは、私としては貴重な経験だった。

この「ニコニコ建築」については、東北大学大学院有志で制作している建築雑誌『ねもは』に関連した『ニコちく──「ニコニコ建築」の幻像学』(http://nicochiku.wordpress.com)という同人誌にインタヴューに答えるかたちで語っている。

そのような磯崎氏の展覧会が、3月2日(日)までの会期でNTT ICCで開催されている。これまでの建築設計の資料とともに、メディア・アーティストとの共同制作による新作を展示しているが、ユーザー参加やインターネットからの情報収集を元に意味のあるランダム性を導入する仕組みであり、《孵化過程》(1962)の続編のようにも思える。理念をそのままストレートに都市計画へと広げたグランドデザインに対して、いかにして実りのある偶然性を導入するかという実験を継続しているように思えて、興味深い。

YCAM10周年記念祭
2013年は、山口情報芸術センター(YCAM)の開館10周年にあたる。この10周年を記念した展覧会「アートと環境の未来・ 山口 YCAM10周年記念祭」(http://10th.ycam.jp)が開催された。私は、国際グループ展「art and collective intelligence」(http://10th.ycam.jp/term1/453/)にて、「collective intelligence・リサーチ・プロジェクト」と題する調査プロジェクトを行なった。

これは、集合知の歴史を概観し、代表的な事例をアイコンとして構成して窓ガラス上にパネル展示するものである。集合知がテーマといっても、いわゆるインターネット上の集合知だけを対象としているわけではない。ヴァネヴァー・ブッシュによる「As We May Think」(1945)を起点とし、コンピュータを知能を拡大するための道具として扱う活動を含んでいる。また、「E.A.T」のようなアーティストと科学者による集団制作も扱っている。多数の人が参加する知的活動総体に関するパースペクティヴを一望しようという「集合知年表」となっている。そのなかでも特に重要なイヴェントを取り上げ、カッティングシートによるアイコンをガラス窓に展示した。同時にiPadによるインタラクティブな仕掛けにより、そのアイコンが表す内容を見られるようにした。私のこれまでの集合知研究を年表という形で振り返ることができ、自分の思考を整理する良い機会となった。

また「LIFE BY MEDIA」(http://10th.ycam.jp/term2/966/)という生活空間をメディアを使って変えるという国際コンペティションの審査員も担当した。6名の審査員(坂本龍一、青木淳、江渡浩一郎、津村耕佑、山崎亮、兼松佳宏)で審査し、最終的に3作品を選んだ。

▷犬飼博士+ 安藤僚子《スポーツタイムマシン》
▷西尾美也《PUBROBE(パブローブ)》
▷深澤孝史《とくいの銀行 山口》

いずれも生活空間をメディアで変容させるというテーマを高いレベルで実現した作品だったが、そのなかでも特に《スポーツタイムマシン》が印象に残った。これは「映像データベースに保存されたさまざまな人々とかけっこで競走できる装置をつくる」というプロジェクトであり、しかもそのデータを保存することによって時空間を越えてさまざまな存在と一緒にかけっこできるようにしている。犬飼氏は「100年後まで残す」という前提で発想しており、その構想自体がすばらしい。犬飼氏はこれまでも日本科学未来館の常設展示物《アナグラのうた──消えた博士と残された装置》(2011)(http://www.miraikan.jp/anagura/)を発表しているが、それと比較しても《スポーツタイムマシン》の完成度は高い。大胆な発想を制約条件の多いなかで実現しており、犬飼氏の実力の高さを感じた。本作品は2013年度文化庁メディア芸術祭の優秀賞(http://j-mediaarts.jp/awards/excellence_award?locale=ja§ion_id=2)に選ばれており、2014年2月に行なわれる文化庁メディア芸術祭で展示されることになっている。

パターンランゲージ関連
2013年はパターンランゲージ関連の書籍に大きな動きがあった。

まず、井庭崇氏による『パターンランゲージ──未来を創る創造的言語』(http://www.amazon.co.jp/dp/4766419871)が出版された。中埜博、竹中平蔵、江渡浩一郎、中西泰人、羽生田栄一らとの対談や鼎談が収められている。私は、井庭氏、中西氏との鼎談に参加している。2011年に行なった鼎談なので、約2年前の私の考えであり、『パターン、Wiki、XP』を出版した2年後の考えでもある。このように自分の考えが少しずつ整理され、発展する様子を自分で辿れるのはありがたい。また、本書は井庭氏による前書きや注釈が充実している。また、中埜博氏による『ネイチャー・オブ・オーダー』の解説が載っており、簡単に全体を掴むためにも有意義である。

アレグザンダーが現在取り組んでいる『生命の現象 (ザ・ネイチャー・オブ・オーダー 建築の美学と世界の本質)』(http://www.amazon.co.jp/dp/4306045935)の日本語訳第1巻が出版された。翻訳にあたった中埜博氏の努力の賜物と思う。この本に関してはいろいろな事前情報があったが、実際にざっと読んでみての感想は、思ったよりも理路整然とわかりやすく書いているということ。アレグザンダーの意見に同意するかどうかは別として、『形の合成に関するノート』から連なるデザイン(設計)に関する思想の集大成として有意義だと思う。

そして、その『形の合成に関するノート/都市はツリーではない 』(SD選書)(http://www.amazon.co.jp/dp/430605263X)や、『オレゴン大学の実験』(http://www.amazon.co.jp/dp/4306051285)は長らく絶版になっていたが、2013年に復刊した。拙著『パターン、Wiki、XP』がきっかけとなってアレグザンダー再評価のブームが起こり、それがきっかけとなって再販が進んだと聞いたことがあるが、事実だとしたらこれに勝る喜びはない。また、再販に向けて動いた鹿島出版会をはじめとする関係者の皆様に敬意を表したい。

考えてみれば、2013年はパターンランゲージを日本に紹介した磯崎新氏と議論する機会もあり、パターンランゲージについての思考を深めることができた年だった。

グッドデザイン賞
2013年より、グッドデザイン賞の審査員となった。私の担当領域は生活レベルのインタラクションデザインである。近年は審査対象が多様化し、建築においても、ユーザーを巻き込んだデザイン手法が多数試みられており、そういった分野も含まれている。つまり、意外なことに建築についても多数評価することになった。

審査員になって思ったことは、想像以上に面白いということだ。応募総数が約3000件で受賞が約1000件ということは、受賞しなかった約2000点は表に出ないわけである。審査員はその全体を見ながら審査するわけなので、自ずと結果に対する見方も変わっていった。

ニコニコ学会β
ニコニコ学会βの活動も展開している。2013年4月には「第4回ニコニコ学会β」(http://niconicogakkai.jp/nng4/)を、12月には「第5回ニコニコ学会β」(http://niconicogakkai.jp/nng5/)を開催した。8月には「ニコニコ学会βサマーキャンプ2013」(http://peatix.com/event/15759/view)と、「ニコニコ学会β夏の自由研究」(http://niconicogakkai.jp/info/nng_summer)を実施した。5月には、ニコニコ学会βはアルス・エレクトロニカ賞を受賞し(http://kai-you.net/article/453)、9月には授賞式に出席するためにアルス・エレクトロニカ・フェスティバルに行ってきた。12月には、「月刊ニコニコ学会β」を創刊し、これまでにすでに3号出版している。「月刊ニコニコ学会β 創刊準備号」(http://www.amazon.co.jp/dp/B00GJFDACU)「月刊ニコニコ学会β 第1号」(http://www.amazon.co.jp/dp/B00HCZJVCO)「月刊ニコニコ学会β第2号」(http://www.amazon.co.jp/dp/B00I0LKVI2)。その中でも特に第1号ではアルス・エレクトロニカ・フェスティバルの体験記を載せているので、ぜひ読んでみてほしい。

以下、自分が関係していないが、2013年の興味深い作品である。

Port B『東京ヘテロトピア』(構成・演出:高山明)
Port Bによる『東京ヘテロトピア』(http://www.festival-tokyo.jp/program/13/tokyo_heterotopia/)は、劇作家の高山明氏による都市を使った演劇である。アジア各地から東京への留学生がテーマとなっており、留学生の活動とその足跡を辿る旅となっている。舞台装置としては、2012年の『光のないII』(http://www.festival-tokyo.jp/program/12/kein_licht_2/)と同じように、地図とラジオの組み合わせである。受け取ったパンフレットに書かれている地図が示す場所に行ってラジオの周波数を合わせると、物語が聞こえてくるというものである。

私は東京のなかに、これほどアジアからの留学生の足跡が残っているとは知らなかった。たとえば、アウンサンスーチーの父親アウンサン将軍は日本の支援を受けていて、「面田紋次」という日本名を名乗っていた。クーデターを起こしたネウィン将軍は、日本名が「高杉晋」だった。ミャンマー、かつてのビルマと日本の間のつながりがこれほどまでに深いとは、私は知らなかった。

また、カンボジアにポルポト政権があって、そこで大虐殺が起こったことは知っていたが、そのようなカンボジアから難民として日本に移ってきて、東京で「アンコールワット」という店を構えている人がいるとは知らなかった。

また、私は以前文京グリーンコートに勤務していて、そのすぐ横の「アジア文化会館」の食堂「ABK食堂」で、毎日のように地元仕様のランチを食べていた。このアジア文化会館の前身として「新星学寮」があり、今もその建物が残っている。このような深い歴史があるとは知らなかった。

これまでの高山明作品と同じなのは、東京という街を異化して違う風景を見せるところだろう。まさしく「現実の中の異郷=ヘテロトピア」をテーマとしている。今回特に強調されているのは、それが歴史的に作られてきた経緯に着目している点である。アジアでは、上海が魔界都市と言われているが、規模は違うが東京にも同じような意味がある。そのような、アジアの歴史と交差する東京という歴史のなかの位置づけを深く体感することができる演劇作品だった。

また、今回は「フェスティバル/トーキョー」における最後の高山明作品でもある。これまでフェスティバル/トーキョーを支えていたディレクター相馬千秋氏は、2013年度で退任することとなった(http://www.festival-tokyo.jp/news/2013/12/ft-1218.html)。この異動に伴い、2014年度のフェスティバル/トーキョーでは高山明作品は公開されないことになった。相馬氏の退任理由は明らかにされていない。

この6年間フェスティバル/トーキョーを続け、東京の演劇シーンを面白くしてきた相馬氏の努力に敬意を表し、心から感謝したい。相馬さん、お疲れ様でした。本当にありがとうございました。

ティノ・セーガルが金獅子賞受賞
第55回ヴェネチア・ビエンナーレにて、ティノ・セーガル氏が金獅子賞を受賞した(http://www.tomosha.com/asia/0-1531)。一切の物を残さずに、パフォーマーによって状況を作り上げることで作品とする。このような空間を変容させる作品は今後さらに発展していくことだろう。

Fethno
「Fethno」(http://fethno.jp)は、民族音楽学者 小泉文夫氏の没後30年に際し、彼が現代の音楽界に与えた影響を「再発見」するためのライブ・イヴェントである。アフガニスタン、アイリッシュ、北インド、アイヌなどのさまざまな民族の音楽をその道の第一人者が演奏する。また同時に小泉文夫が辿ってきた足跡を関係者のインタヴューによって振り返る。全ての演奏がすばらしかったが、特にアイリッシュの音楽は胸に響いた。このプロジェクトで特筆すべき点は、全て東京藝大の現役の学部生によって進められた点だ。小泉文夫が撒いた種が、きちんと受け継がれている点がすばらしい。

●A2
私の活動としては、まず2014年4月26日(土)~27日(日)の「ニコニコ超会議3」(http://www.chokaigi.jp)における「第6回ニコニコ学会β」にむけて準備を進めている。私としては、第5回ニコニコ学会βでシンポジウム形式での開催については十分模索できたと考えている。そのため、第6回では、よりユーザーの関与を強める形でシンポジウムやワークショップを構成したいと考えている。

また、パターンランゲージに関わる学会「AsianPLoP2014」(http://patterns- wg.fuka.info.waseda.ac.jp/asianplop/)では、プログラム委員を担当している。このようなパターンランゲージに関する活動を続けることで、少しずつ自分のなかでの知見が深まっていく。大変ありがたい。

ほか、「札幌国際芸術祭2014」(http://www.sapporo-internationalartfestival.jp)は、YCAM10周年記念事業に続き、坂本龍一氏がゲストディレクターをつとめている。文化都市札幌でどのような芸術祭が展開するのか、期待している。「道後オンセナート2014」(http://www.dogoonsenart.com)は、地域振興型の芸術祭として、旅館を巻き込む形で展開しており、興味深い。

●A3
喜ばしいことと考えている。特にデジタル技術の発達という点で、6年後に向けて発展させるための目標が誕生したと考えられる。
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