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特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

藤村龍至

●A1

五十嵐太郎氏が芸術監督を務めた「あいちトリエンナーレ」での宮本佳明《福島第一さかえ原発》と東浩紀氏らによる『福島第一原発観光地化計画』はともに福島第一原発を対象としており、「絆」「つながり」のキーワードで括られるプロジェクトが多いなかで特に後者は現地住民や東京電力関係者、政治家をはじめとして多くのオピニオンを巻き込み日本の戦後史全体と将来像を俯瞰し、社会に広く問題提起する内容になっており、震災以後の言説やアート、建築プロジェクト全体に対する批評性があると感じました。

『福島第一原発観光地化計画』(ゲンロン、2013)

12月末にゲンロンカフェで6日間限定でゲリラ的に行なわれた「『フクシマ』へ門を開く──福島第一原発観光地化計画」展は、文学が音頭をとり、アート、建築、写真、映像、音楽、ファッションなどの分野が連動して作り上げた展示ということでその内容とともに長く記憶に残るユニークな展示になったと思います。

建築ではdot architectsの《Umaki Camp》が印象に残りました。阪神・淡路大震災にルーツを持つ彼らの思想が小豆島の場所で結実し、小豆島町の塩田町長の社会保障のビジョンと共振している点に感銘を受けました。

他方、GAギャラリーの「設計のプロセス」展ではプロセス表現の多様化が、ヒルサイドギャラリーの「SDレビュー」では社会状況との関係が重視されており、ファインアート寄りだった空気が少しずつ政治寄りに戻っていると感じました。

アートといえば東京都現代美術館「うさぎスマッシュ」展が印象に残りました。特にスプツニ子!さんの《ムーンウォークマシン、セレナの一歩》は日本人理系女子というキャラクターが、月面着陸をはたしたニール・アームストロングのマッチョな英雄性と対比されており、自己啓発本を装った新刊『はみだす力』と合わせて、ベタ化して久しい1995年以後の日本の文化的状況に対しなかなか皮肉が利いていて面白かったです。

スプツニ子!『はみだす力』(宝島社、2013)

●A2

「ART and ARCHITECTURE REVIEW」でもオリンピックに関する特集を組みました(http://aar.art-it.asia/fpage/?OP=backnum&year=2013&month=10)。

新国立競技場の問題のみを考えるというよりは、会場計画全体のあり方、さらには巨大イベントと化した現代オリンピックがグローバルシティに与える影響全般について考える必要があると思います。

晴海の選手村半径8キロの円内に収められたオリンピックの全体計画は、ロンドンのような政治的メッセージは感じられないものの、1970年代以降に新宿、池袋、渋谷へと展開した東京の重心を、都心3区および湾岸に回帰させる明快な意図を感じます。晴海周辺の湾岸がグローバルなビジネスセンターとなり、渋谷や新宿がアジアからの買い物客の目標へと転換するという状況は、丹下健三の「東京計画1960」と槇文彦氏の「見えがくれする都市」、八束はじめ氏に倣えば「ベイエリアン」と「インランダー」の対比と比較可能であると言えます。

他方、東京がグローバルシティとしてさらなる発展を遂げていくのはよいとして、日本における東京の地方都市との格差のますますの拡大が懸念されます。かつて首都機能移転として議論されていたこの問題が、現在は道州制など制度設計を中心にして議論されることになっていますが、2020年以後の東京、および格差解消を念頭に置いた施策をいまから議論していく必要があると思われます。

東洋大学で地元自治体や地元協議会と協働して継続的に取り組んでいる「鶴ヶ島プロジェクト」や「大宮東口プロジェクト」などのソーシャルデザイン・プロジェクトは、こうした「2020年以後」の状況をにらんで仕掛けられていますが、建築界も今後しばらくはアジアとの関係でのグローバルな活動と、国内でストックのマネジメントを行なうドメスティックな活動に二極化するものと思われます。


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