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特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

松田達

●A1
2013年、もっとも印象深かった出来事といえば、2013年12月1日に東京大学で行なわれた、槇文彦、磯崎新、原広司をゲストに、隈研吾を司会に開かれたシンポジウム「Architectural Theory Now:これからの建築理論」(http://www.obuchilab.com/dfl/?p=704)である。おそらくこの御三方のうち、2人が同席しているところを見るだけでも珍しい出来事だと思うが、3人が揃い、そして隈氏が司会をつとめるとなれば、これは事件だ★1。それぞれの年齢もこの時、槇文彦85歳、磯崎新82歳、原広司77歳と、平均年齢80歳を超える。にも関わらず、3者のあいだでなされた話は、日本の建築界における最先端の話であったといえよう。単なる昔話では、けっしてない。内容的には、議論というより、3者がそれぞれの立場を語ったともいえる。モダニズムが一艘の船から大海原へと変化したことを語る槇氏、建築史家による「批評」と建築家による「理論」の違いを提示する磯崎氏、空間の統一理論に向けて建築家が遅れてはならないとする原氏。文脈も方向性も、ある意味バラバラである。しかし、それも半ばは予想されたこと。何よりその3人が同居する場が設定されたことが重要だったと思う。そこから見えたのは、むしろ3氏の距離であり、軸が異なることによって、日本の建築理論の広がりを見たような気がした。さらにそこには相互の「絡み」があった。それぞれ独自の道を歩んできた3人の大建築家が、再び互いの距離を測定する瞬間を垣間見た気がして、その一言一言のやりとりが、極めて強く印象に残った。

「Architectural Theory Now:これからの建築理論」

その他、2013年の出来事を振り返っておきたい。岩波書店から、全8巻となる『磯崎新建築論集』(http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/028601+/top.html)のうち、第7巻までが刊行された。磯崎氏の半世紀に渡る膨大な思考の軌跡は、けっしてすぐには消化されないだろう。しかし、それでよいと思う。特に磯崎新の著作をこれまで読んだことがない世代には、すぐに消化した気にならず、じっくり読んでみてほしいと思う。いかに刺激的な内容であるかが、次第に見えてくるはずだ。特に、冒頭の「反回想」の面白さは際立っている。これが傘寿を超えた人物の書く内容なのかと、各巻ごとにその文章の「若さ」に驚かされる(なお、2月9日には青山ブックセンターにて、第2巻『記号の海に浮かぶ〈しま〉』を手がかりに、磯崎氏と都市工学者羽藤英二氏の対談「都市に未来はあるのか──建築と都市工学の対話」が行なわれるので、こちらにもぜひご注目されたい(http://www.aoyamabc.jp/event/isozaki-review2/)
2013年はまた、丹下健三の生誕100周年であり、さまざまなイヴェントが催され、刊行物が出版された。その盛り上がりのなかで、ほとんど触れられることのなかった丹下健三の1975年から1990年頃の海外の都市計画を中心としたプロジェクトについて、筆者は隈研吾にインタヴューをさせていただく機会を得た(「知られざる丹下健三──海外プロジェクト・都市計画を中心に」)。先に挙げたシンポジウム「これからの建築理論」とも関連する内容となっているので、興味を持たれた方はぜひご一読されたい(このインタヴューの直後、隈氏から直接に12月に予定されているシンポジウムの話を聞いた)。
9月には、金沢で「歴史的空間再編コンペティション2013 第2回「学生のまち・金沢」設計グランプリ」(http://www.kanazawagakusei-compe.com/)が開催された。一見すると地味に見えるかもしれないテーマであるが、このコンペティションのテーマこそ、2010年代に建築・都市に携わる人が、考えるべき内容であると思う。ゼロから新しく空間をつくるのではなく、すでにある歴史的空間を再編すること。作品をそこに絞っている点が、このコンペを特徴づけている。グランプリを決める最後の瞬間、2案に審査員の立場が分かれ、今後の同コンペティションの方向性にも関わる議論が繰り広げられた。このような議論が継続的に繰り広げられるコンペティションへと育ってほしい。
10月には、建築学会の建築文化週間の一環として、建築夜楽校2013が開催された。テーマは「アーキテクト and / vs アーバニスト」(http://www.kenchiku.co.jp/bunka2013/night/)。筆者はシンポジウムのモデレーターと展覧会のキュレーションを担当させていただいたが、建築分野の論客と都市分野の論客が同じ場で語り合うこのようなシンポジウムを開くことは、長年思い描いていたことだっただけに、感慨が深かった。その内容については、『建築雑誌』2014年2月号に活動レポートを掲載予定であるので、よければそちらをご確認いただきたい。
最後に、年末に著者からご本を恵贈いただいた八束はじめ氏の新刊『ル・コルビュジエ──生政治としてのユルバニスム』(青土社)(http://www.seidosha.co.jp/index.php?9784791767557)についても、ぜひ挙げておきたい。もともと『10+1』誌に「思想史的連関におけるル・コルビュジエ」として連載されていたものである。1930年代のル・コルビュジエをひとつの中心としながらも、むしろそこから内容は広く展開し、フランスの都市計画(ユルバニスム)にまつわる諸事情などさまざまな連鎖(ネクサス)が書き込まれており、連載当時から、その圧倒的な情報量に敬服していた。今回、書籍としてまとめられるとともに、タイトルの「生政治」にもあるようにフーコー的な視点が追加されることで、八束氏の思考がより奥行きのある歴史的パースペクティヴのなかに位置づけられることになるのではないかと思う。

●A2
2013年から2014年にまたがってであるが、2つの展覧会が開催されている。国立新美術館で開催されている「16th DOMANI・明日展〈文化庁芸術家在外研修の成果〉」(1月26日まで)(http://domani-ten.com/)と、NTTインターコミュニケーションセンターで開催されている「磯崎新 都市ソラリス」展(3月2日まで)(http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2013/ISOZAKI_Arata_SOLARIS/index_j.html)であり、奇しくも両者とも同日2013年12月14日から始まっている。筆者もそれぞれ出展者、アドヴァイザーとして関わっている。前者はこれまで美術分野の展覧会であった同展に、今回はじめて建築家が参加した。建築分野は、幅1.5m、奥行き2.7m、高さ3.6mという、おそらく展覧会のスペースとしてはあまり見ないような路地的空間である。43名の建築家がその空間をいかに使いこなすのか、その多様性を一望できるような展示となっていた。後者は会期が大きく3期に分かれ、それぞれの会期で内容が大きく変わるという。会期中は一枚のチケットで何度でも再入場可能であるそうなので、ぜひ何度か足を運んでほしい。いまや伝説的になっている1997年の「海市」展から16年、同じ場所で形を変えて開かれるこの展覧会には、連続的なトークセッションがあり、その最後に統括討議(3月2日)も予定されている。そこまでどのような展示と議論が展開されるのか、ぜひ注目されたい。
3月頃には、例年の恒例であるが、卒業設計関係のイヴェントが多く開催される。筆者も全国合同卒業設計展「卒、」14(3月1日〜3日)(http://sotsuten2014.wix.com/sotsuten14)や、トウキョウ建築コレクション2014(3月4日〜9日)(http://www.tkc-net.org/)にクリティークとして参加させていただく予定であるが、毎年、多くの学生の作品を見ることで考えさせられることも多い。建築や都市を学ぶ学生の皆さんには、提出まであと少し、エールを贈りたい。
同じ3月に、新入生も含む建築学科の学生に向けた本が刊行予定である。建築学科での生活のエッセンスを凝縮したような内容となっており、筆者も含め、多くの建築関係者が執筆している。内容はわかりやすく、どのページもためになるはずだ。学生時代に、まさにこういう本があれば良かったと思えるような本になりそうであるので、無事、予定通り刊行されることを祈っている。
レム・コールハースが総合ディレクターをつとめる第14回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展には、もちろん大きな注目を寄せている。

★1──2014年1月21日に、磯崎新氏に直接聞いてみたところ、やはり3人のうち2人が同席することはあったが、3人が同席したのは初めてのことであったという。
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