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特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

佐藤信

●A1
2013年いっぱい『週刊読書人』という雑誌で論壇時評を担当させてもらった。総合雑誌が中心なので建築や都市に関する記事を直接に扱うことはなかったのだが、地方がこれまでと違ったかたちで注目され、これから問題になってゆくであろうことは強く感じた。郊外のショッピングモールに関する論考が多く出版され、若者の就農(農ギャル)などが注目されていることはみなさんご存知の通りである。だが、こうした潮流は持続的社会を目指すロハス的生活とは流れを異にしているように見える。大雑把にまとめるなら、その潮流は、都市と地方という二極性(と止まらない都市への人口流出)を前提にしながら、自分の生活を組み立ててゆくという生活態度なのだと思う。両極の半ばに居心地のよさを見出したり、両極を自分の生活のなかでバランスよく組み合わせたりといった具合にである。
これまでならば、はいそうですか、で終わりだったのだが、現代の日本社会における問題はこの都市―地方の議論と(環境の持続性はさておいて)日本社会そのものの持続性との議論がリンクしてくることである。その突端とも呼べるのが増田寛也・人口減少問題研究会が『中央公論』12月号に発表した「2040年、地方消滅。『極点社会』が到来する」。
タイトルが魅力的じゃなかったからか知らないが、このレポートに対する一般社会における反応はあまりない。そのうえ、ネット上の反応をさらっと見てみたら、地方の復権を理想的に語っている人たちがまるで我が意を得たりといったように賛意を示していたが、これは我田引水も甚だしい解釈だと思う。確かにこのレポートは、大都市圏への人口流出は止まらず、しかし東京のような大都市では出生率が抑制されているから、人口減少に歯止めをかけようとするなら大都市圏への人口流出を食い止めるべきだ、と提言している。だが、そこで期待されているのは地方一般ではない。むしろ地方の農村における人口流出は止めるべくもないが、地方中核都市がその受け皿(彼らは「防衛・反転線」と読んでいる)となることで人口減少を食い止めようという、現実的な地方都市重視論なのである。都市と地方という二極構造を想像してしまうと、大都市と地方都市という差異は縮小されてしまうのだが、そこで地方都市の魅力を打ち出せるかどうか、ひとつの挑戦的問題提起である。
彼らの処方箋がそのままに採用され、実現するかどうかはわからないが、少なくとも2014年以降、都市―地方という二極に回収される思考様式は、新しいものに塗り替えられることになると思う。そうして地域のイメージそのものが揺らいでくれば、建築もまた変容せざるをえないのは当然だろう。それらがどんなイメージをとるのか、2014年はさまざまな刺激的な試みが登場することを期待したい。

●A3
上に書いたような流れから言えば、国土強靭化や東京オリンピック計画が旧来的な利権秩序の復活として機能することになれば、いかがなものかという思いはある。防災や祝典が国家レベルで企図されること自体には何の問題もないが(当たり前だ)、現在の日本社会が何をどのようなかたちで必要としているのか、それを問い直し、枠組みを組み直すことは何よりも必要だったはずである(東京オリンピックをどう捉えるべきかについては「10+1 web site」誌上に書かせていただいた。「都市と祝祭──あるいは来るべき不完全なオリンピックへの賛歌」)。すでに復活してしまったものを換骨奪胎というわけにはいかないけれど、自分の意識まで利権秩序に慣らされてしまわないように気をつけなければ。

●A2
2013年の年末に御厨貴教授の『権力の館を歩く』が文庫化(ちくま文庫)された。この本、自分も参加していた御厨教授の「建築と政治」プロジェクトの成果物である。この本に対しては(参加者のひとりでありながら)、空間と政治とを接続する枠組みが明確になっていないと、いろんなところで批判した。もちろん、この批判は御厨教授に対してのみのものではない。東京オリンピックを挙げるまでもなく、空間と政治とのあいだに相互連関があるのは誰しもが納得するけれど、その連関の全体像を意識しながら建築を見るというのはなかなかないのだ(都市計画についてはよくあるのだけれど)。
そんな空間と政治についてだが、今年度は「権力の館を歩く」を後継する国際日本文化研究センターの共同研究(「建築と権力の相関性とダイナミズムの研究」)の最終年度にあたり、成果物が発表されることになっている。これまで空間に目を向けることが少なかった少壮の政治学者も多く参画して、建築に宿る政治性の諸相を描き出すものになる予定なので、それがまた刺激となって空間と政治との連関の議論が発展することを期待したい。自分としても、この研究会で報告させてもらった山県有朋の邸宅と庭園に関する研究、国会議事堂の建設過程についての研究を今年中には公にしたいと考えている。海外の研究者にこのことを話すとやたら受けがいいので、国際展開も考えつつ進められれば。

御厨貴『権力の館を歩く』


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