ENQUETE

特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

榑沼範久

消滅・距離・出生

雑誌『nobody』39(Summer 2013)「特集=梅本洋一の仕事と時代」掲載の対談(北山恒×榑沼範久)が終わったあと、梅本洋一(1953.1.9 - 2013.3.12)の著書『建築を読む──アーバン・ランドスケープ Tokyo-Yokohama』(青土社、2006)を再び読み返した。「かつてあったもの──それを懐かしく思おうが、嫌悪しようがどちらでも同じことだが──がきっぱりと、そして明瞭に『消滅』してしまうこと」(82頁)。これは「東京」を見つめる小林信彦を論じた章の核になる文だが、消滅という違和、現在への距離が、『建築を読む』全体を突き動かしている。この違和や距離のないところで建築・都市を語る言葉を自分は信頼できないし、場所でも人間でも、消滅の衝撃を自分は見透すことができない。

梅本洋一『建築を読む』/小林信彦『昭和の東京、平成の東京』

映画『アイ・ウェイウェイは謝らない』(アリソン・クレイマン監督、2012)が東京・大阪・福岡で2013年の暮れから公開されている。これから2014年にかけて、横浜・名古屋・神戸・京都・那覇・札幌でも『アイ・ウェイウェイは謝らない』は順次公開されていく。われわれの《遠近法の研究》は、何との距離を測りながら、どの場所で、何を消失点に狙っていくか。

暗い時代や薄暗い時代を生き抜くなかで、おそらく初めて完全に回帰してくる言葉がある。例えばそれは、ハンナ・アレントの言葉だ。「人間事象の領域である世界は、そのまま放置すれば『自然に』破滅する。それを救う奇蹟というのは、究極的には、人間の出生という事実であり、活動の能力も存在論的にはこの出生にもとづいている。いいかえれば、それは、新しい人びとの誕生であり、新しい始まりであり、人びとが誕生したことによって行ないうる活動である。この能力が完全に経験されて初めて、人間事象に信仰と希望が与えられる。(...中略...)福音書が『福音』を告げたとき、そのわずかな言葉の中で、最も光栄ある、最も簡潔な表現で語られたのは、世界にたいするこの信仰と希望である。そのわずかな言葉とはこうである。『わたしたちのもとに子供が生まれた』」(ハンナ・アレント『人間の条件』志水速雄訳、ちくま学芸文庫、1994、385-386頁)。映画『ハンナ・アーレント』(マルガレーテ・フォン・トロッタ監督、2012)も2013年の暮れから2014年にかけて、飛び火するように日本で上映館を増やしている。

ハンナ・アレント『人間の条件』

INDEX|総目次 NAME INDEX|人物索引 『10+1』DATABASE
ページTOPヘ戻る