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特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

五十嵐太郎

●A1
全体として建築は、新築物件よりも、国立近現代建築資料館の開館が印象に残りました。いまはささやかな施設ですが、建築の未来を考えると、重要な出来事だったと思います。あいちトリエンナーレ2013の芸術監督をつとめ、大変な一年でしたが、終了直後に『中日新聞』の酷評座談会に対して、Twitterで連投反論を行なったことは、個人的にメディアと批評について考えさせられる機会となりました。Togetterのまとめが、5万5千ビューもあったことは、全体来場者数の62万人に対しても少なくない数字です。

12月に中国を訪れ、天津、北京、重慶でレクチャーを行なったのですが、雑誌や本などの紙メディアが元気なのが、うらやましく思いました。また自分の本でもっともハードコアの『建築と音楽』(NTT出版、2008)が中国語訳されているのですが、何人もの学生がこの本をもってきていたのに対し、日本の学生で、この本を買って読んでくれている人にほとんど会ったことがないことは心配になりました。旅行の最後は、四川大地震の被災地を訪れ、そこで廃墟になった街をまるごと保存し、いまは観光地になっている震災遺構、少数民族の現地再建や移転による幾つかのニュータウン、それに隣接する壊れた学校の震災遺構、震災博物館などをまわりました。善し悪しはともかく、ほとんどが震災後2年くらいで完成しており、そのスピードにただただ驚きました。一方、東日本大震災の震災遺構は、もうほとんど残っていません。

五十嵐太郎+菅野裕子『建築と音楽』(NTT出版、2008)

●A2
横浜トリエンナーレが、どのようにコンセプチュアルなテーマを国際展としてまとめていくかに大変、興味があります。またヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展が例年よりも早く始まり、レム・コールハースのディレクションによって全体がどのように変わるのか、また日本館における太田佳代子さん、中谷礼仁さんがどのような展示を魅せるかにも期待しています。自分の関わるものでは、埼玉県立近代美術館を皮切りに各地を巡回する日本の戦後住宅展が夏からスタートするので、鋭意準備中です。

●A3
ザハ・ハディドの新国立競技場案が、多くの人が公共施設をめぐって、あれこれ意見を言える機会をもったのは、新しいランドマークとして重要なことだと思う(パリのエッフェル塔やポンピドゥ・センターにはそれがあったが、東京スカイツリーにはなかった)。ともあれ、東京オリンピックは、東北の復興に貢献するどころか、新しい施設やインフラの工事がかぶると、ただでさえ人手不足と建設費高騰が起きているわけだから、今後はむしろブレーキになる可能性があるのが心配だ。ちなみに、本当は2016年招致のときの国内で出されていた磯崎新らが関わった福岡の案が、いまでもよかったと思っている。仮に世界の招致競争に勝てなかったとしても。
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