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特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

松原慈

●A1

建築に限らないが、空間は、そこでしばらく時間を過ごしてみないと、よくわからない。
時間を過ごしてわかることは、おおげさなことではない。光の細かな動き、色の変化、空気の流れ、身体感覚の鋭さ、土地と建物の持つ強さあるいは脆さ......。
でも、日暮れ頃から夜明けまで、太陽や月の付き添いのもと、その場所で一晩過ごしてみると、連続して自然に感じられる、ときにはぞくっとする変化。
身体と空間の密やかな取り引き。本を読むように知識を手に入れるのとは違い、ひとときとして同じものは交換されない。
2013年に親密な時間を過ごしたいくつかの空間は、空間に対する理解を押し広げ、時間と空間の関係をもっと深く知りたいという衝動を与えてくれた。

パレ・モクリ(Palais Mokri)

モロッコ・フェズ旧市街にタイブ・モクリによって1906年に建てられたフェズを代表する邸宅建築のひとつ。モクリ家の邸宅はフェズ市内にほかにも複数存在するが、なかでも本邸宅は、旅好きで趣味人だったタイブ・モクリがイタリアやイランから輸入したデザインやマテリアルを用いた特別な造りになっている。それぞれ、赤、青、緑のガラスを用いた三つの寝室がとくに美しい。太陽の位置や空の見え方によって、寝室全体は、色が反転するほどに表情を変える。


上=パレ・モクリ、外観/下=同、サロン・ルージュ(Salon Rouge=赤い応接間)
ともにフェズ、モロッコ © Megumi Matsubara

Megumi Matsubara & Nástio Mosquito

自身のインスタレーション作品。アフリカ大陸に実在する自身の私的空間を最小限の構造物、光、音で再現したコミュニケーションの場。横浜市芸術文化財団主催で「TICAD V(第5回アフリカ開発会議)」の関連イベントとして開催された「Sound/Art - Tuning in to Africa」のために、日本とアフリカをテーマに、文化や人の出会いの本質を問う作品として構想した。時刻や天候の差とともに、パフォーマンス、トークイベントや音楽ライブなど、さまざまな出来事を招き入れた。

Megumi Matsubara & Nástio Mosquito インスタレーション、ヨコハマ創造都市センター
©Kenshu Shintsubo

33年目の家

assistant(松原慈+有山宙)設計で2013年に竣工した住宅。奈良市、東大寺に隣接した敷地に建つ。施工中に招聘された国際芸術センター青森(ACAC)でのアーティスト・イン・レジデンスのほか、仙台や東京の複数の場所で、母屋の一部や構成要素のひとつであるパビリオンが制作・展示された。最終的にそれらは奈良に運び、ひとつの住宅として再構成した。家の各部分がもつストーリーと記憶や天候が重なり、ひとつの空間のなかに複数の親密な空間が生まれ、刻々と移り変わるように注意した。

33年目の家、奈良
©Tadasu Yamamoto(上)、©Megumi Matsubara(下)

サハラ砂漠の寝室

天井のない砂漠の寝室では、夜の照明は月である。満月の夜は昼間のように明るい。どこまでも平坦な敷地と大きな空しかない風景からは、新月から満月まで、太陽と月の間の光のやり取りがいかに刻々と変わっているかがわかる。これがわたしの身体が感じる光の基本だと実感すると同時に、どの寝室よりも、ここの天井がもっとも美しいということに気づく。その天井は、大きな可能性を夢見させてくれるとともに、ただ存在する空間の前で、つくづく謙虚な気持ちにもさせてくれる。

ティッサルドゥミン・ヴィレッジ(Tissardmine)、モロッコ
©Megumi Matsubara

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