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特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<平瀬有人
●A1
塩塚隆生《Silent House》(2008)、藤本寿徳《田尻の家》(2010)
3月と11月に二つの建築を取材させていただいた(『住宅特集』(2013年5月号、2014年1月号、新建築)。偶然ではあるが、じつはどちらも以前より拝見したいと思っていた建築であり、光栄な機会であった。《Silent House》は、おおよそ私たちが慣習的に建築に必要な要素だと認識しているプロダクトの姿の見えづらい、砦を水平に九十度回転させたモノリスのような塊のような建築。自律的に力強い形態や素材感を持ちながらも、他律的に大地と融合して感じられる、まるで遺跡のようなありようであった。《田尻の家》は、海を巡って繰りひろげられるさまざまな「生活」に対応した機能を持ち、漁港という場所の持つ「イメージ」からつくられた、護岸や堤防がやや肥大化したマッシヴなボリュームの「形態」を持つ、アルド・ロッシの言うような都市の要素の集合体=「都市的創成物」としての建築。サンドブラストによるコンクリート表面のザラザラな肌理のマテリアリティは、護岸や堤防のような解像度の粗い表情を見せ、土木構築物に囲まれた場所との呼応を感じた。
- 塩塚隆生《Silent House》(2008)
- 藤本寿徳《田尻の家》(2010)
松村正恒《日土小学校》(1958)
愛媛県八幡浜市立日土小学校は、市の職員として勤務していた建築家・松村正恒氏によって設計された2階建て木造建築である。戦後モダニズム建築を木構造で実現した極めて稀な事例であり、南面を流れる川に張り出す配置計画やクラスター型教室配置による両面採光などの特徴がある。筆者の学生時代の小学校課題のときにリファレンスとして紹介されて以来かねてから訪れたいと思っていたのが、ようやく昨年実現した。子どもがいきいきと走り回る素晴らしい空間であった。
- 松村正恒《日土小学校》(1958)、喜木川に張り出したテラスのある南東側外観
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- 左=同、蹴上が低く踏面が広い階段
右=同、川に面した図書館
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- 左=同、階段室
右=同、透明感溢れる主玄関と昇降口
鈴木了二『建築映画 マテリアル・サスペンス』
「10+1 website」の刊行特集(2013年4月号)にも寄稿させていただいたが
いえつく+猪熊純+大西麻貴+木内俊克+田根剛+栃澤麻利+成瀬友梨+平瀬有人+藤原徹平『やわらかい建築の発想──未来の建築家になるための39の答え』
さまざまな質問に若手建築家が答えるかたちで建築的思考のプロセスを紹介する書。ストレートで素朴で単純な質問にそれぞれの立ち位置を明らかにしつつ回答している。筆者も寄稿しており、「建物の中で一番重要な要素は何ですか?」「建築の世界ではどんな人材が求められていますか?」「厳しい建築の条件はどう克服して進行させていますか?」「注目しているマテリアルは何ですか?」「『自然』との付き合い方を教えて下さい。」「『人生』って何ですか?」という問いに答えている。
マテリアライジング展
デジタルファブリケーション技術の発展から、近年ものづくりの現場では「モノを考えること」から「モノを作ること」へのプロセスの変化がみられる。この展覧会はそうした潮流にまつわる研究・作品を集めたものである。2010-11年の10+1アンケートにも挙げているが(「デジタルファブリケーション/ETH-Z CAAD講座」)
「計算折紙(コンピューテーショナルオリガミ)のかたち」展
折紙は紙を折ることでさまざまな形をつくる伝統的な遊び、創作活動であるが、その研究は幅広く、数学、情報科学、材料科学、構造工学、建築、デザイン、芸術、教育、歴史など多岐にわたる興味深いテーマである。そのデザインと工学応用の可能性を紹介した展覧会が東京大学で開催された。折紙のなかでおそらく一番有名な折り方は「ミウラ折り」だろう。人工衛星のパネルの展開方法を研究する過程で生み出された地図や飲料缶などに用いられている折りたたみ方だ。2012-13年の10+1アンケートにも挙げているが(「コンピューテーショナル・デザインと立体折紙」)
アントニオ・ロペス展
スペインを代表する画家アントニオ・ロペス(1936-)の日本初の個展。筆者はかつて画家の藪野健さんの講義中に紹介された映画『マルメロの陽光』(監督=ビクトル・エリセ、1993)
未来を担う美術家たち 16th DOMANI・明日展
文化庁が1967年度より実施している新進芸術家海外研修制度の成果発表の展覧会である(国立新美術館、2013年12月14日〜2014年1月26日)。今展でははじめて「建築」のジャンルを取り上げ、43名の建築家と8名のアーティストによる表現が一堂に会した。筆者も近年のプロジェクトを出展させていただいた。筆者は6年間の学生時代・6年間の実務経験を経て本研修制度にてスイスに1年間滞在したが、帰国して6年経つ現在、スイスを経ての6年間の成果を発表するとても良い機会であった。
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- 『建築映画』/『やわらかい建築の発想』/マテリアライジング展
「計算折紙のかたち」展/アントニオ・ロペス展/DOMANI・明日展
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- 「DOMANI・明日展」展示風景
●A2
『模型で考える──マテリアルとデザインのインテグレーション(仮)』(2014刊行予定)
じつは昨年のアンケートにも挙げさせていただいたのだが、筆者の都合で刊行予定が遅れてしまった。現在鋭意準備中である。日本の建築教育や設計の現場でつくられるモデルはスチレンボードによる白模型がほとんどであるが、こうしたスタディからは抽象的な面の構成以上の発想にはつながらないことが多い。面の構成にあとから素材を貼り付けるといういわばハリボテ建築ではない、マテリアルから展開する建築のありようはないだろうかという視点から書籍の刊行を準備している。本来ならマテリアルとデザインはインテグレートされるべきものであるはずなのだ。石膏、油土、木材、紙、金属、樹脂といった素材をどのように結構(techtonic)、構成(composition)するか。たんなる教科書的な視点を超えた新しい模型論を展開したいと考えている。
『建築グラフィックスの論理と実践(仮)』(2014刊行予定)
建築家・坂牛卓さんと刊行準備中の書籍。建築グラフィックスはたんなる説明ではなく表現であり、現代的視覚におけるヒエラルキーとフラット及び論理と感性のなかでの位置づけを鮮明にすることこそが重要である。コンペのプレゼンボードのみならず、絵画やグラフィックデザインなどの数多くの事例を参照しつつ論理を探り、実践を紹介する。
「韓国交通大学校(韓国)」「タマサート大学(タイ)」との国際ワークショップ
佐賀大学では、2013年夏には韓国交通大学校との、2013年秋にはタマサート大学、北九州市立大学との国際ワークショップを開催した。それぞれ1週間程度現地に滞在し、現地の敷地を題材に共同で建築・都市デザインの提案をまとめるというものである。2014年も開催予定。猫も杓子もグローバルという標語を抱えて大学間交流が進むなか、このワークショップの主眼はなにか。けっしてグローバル・コスモポリタンを育てるということではない。例えばスイスの建築家ギオン・A・カミナダは人口約250人のグラウビュンデン州フリンで地域の伝統構法を用いながら伝統と新しさが統合された建築をつくりつつ、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH-Z)で教鞭をとり作品集を出版している。グローバルでローカル。そんなグローバルな視野を持つローカリティを育てたい。
《KFG》(2009-)
以前のアンケートにも掲載したが、佐賀県鹿島市に位置する1899年創業の酒蔵の改修計画を進めている。450石にも満たない小さな酒蔵ではあるが、2011年の世界一の受賞を契機に観光客が各地から訪れるようになり、ショールームやギャラリー・オフィスなどの整備が必要となった。1号蔵、旧精米所、麹室は1921年竣工の登録有形文化財であるため、古くから残る建築の祖形を際立たせつつ新しい要素を入れることで所与の空間や古いものがさらに良く見えるような建築的介入(Architectural Interventions)の計画を進めている。2012年には木造の母屋の一部をショールームに改修し(《KFG-os》)、2013年にはオフィスの改修(《KFG-oo》)及び洗米機を収容するための洗米棟を設けた(《KFG-s》)。今後は、2014年に蔵の一部をラウンジに改修(《KFG-l》)、登録有形文化財の旧精米所(1921年竣工)をギャラリーにする改修や(《KFG-g》)、損傷が激しい母屋をオフィスと住宅棟に建替える計画(《KFG-o》)、同じく登録有形文化財の1号蔵をイベントスペースに改修する計画などを予定している。
- 左=《KFG-s》(洗米棟)/右=《KFG-g》(登録有形文化財ギャラリー改修)
- 《KFG-os》(ショールーム改修)
- 《KFG-oo》(オフィス改修)
《KFG》の写真はすべて、(c)Y.Harigane (Techni Staff)
《OHH》(2013-14)、《KNH》(2013-15)、《SIH》(2013-14)、《FHN》(2013-14)
東京、福岡、佐賀で、住宅、集合住宅、保育園などのプロジェクトを進めている。ミリューからマテリアルへ