ENQUETE
特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<西澤徹夫
●A1
3Dフードプリンタ
「宇宙旅行だけでなく人口爆発によって将来起きるとみられる食糧難にも役立つ」とされる、3Dフードプリンタの技術に、NASAが出資しているというニュース
エドワード・スノーデンが国家安全保障局(NSA)による個人情報収集を暴露したことによっても、僕たちを取り巻く環境はすでにまったく別のものに入れ替わっていることが明らかになりました。そこでは、個人のプライバシー/共同体としての国家の境界線が知らぬ間に引き直されています。
現行のシステムが分節している世界を、まったく別の空間分布としてとらえ直す必要があるのかも知れません。
原田郁展
CGでつくった仮想の町や建物の風景を描く。これだけでは、建築家にとってはいつもの表現でしかないように聞こえます。しかし窓から見える風景や、風景の側から見た建物を丁寧にマチエールを与えながら執拗に描いていく行為によって、存在しない場所についての仮想の記憶を本当に存在するかも知れない風景へと次第に変えていこうとしているように思えます
。そして描かれた風景画は、再び仮想の建物の中に飾られ、その様子がまた描かれる。そうやって現実の空間に掛けられた絵画と、仮想の空間に掛けられた絵画が呼応して、見ている者はあっちとこっちを行き来するようになるのです。もうひとつ、ちょっと古いですが、Vincent Van Googleというプロジェクトを見つけたのも2013年でした 。ビル・ガフィーは、グーグルストリートビューで見つけた世界各地の風景を、それこそゴッホ風に描いているアーティストです。ストリートビューで〈旅〉をしながら〈ロケハン〉し、気に入った場所を描く。ある特定の日時にグーグルによって切り取られた風景をもとに描くことと、実際にその場所に行って風景を切り取って描くことのあいだに、モチーフや場所が時間と空間から切り取られて絵画としてあるということにおいて、本質的な違いはないのかも知れません。ふたつの例では、日常と身体の延長で風景を描くのではなく、身体を通して知覚したのではないけれど、信じることのできるどこかの風景を描くということは共通しています。少なくとも認識論的なレベルでは、あらゆるものは時間と空間をまたいでこの世界に偏在しています。ここには、これまでにはない空間のとらえ方と表現があると思いました。
- 原田郁(Iku Harada)《HOME-WHITE CUBE #003》キャンバスにアクリル、1,167×1,167mm
●A2
ヴェネツィア・ビエンナーレ建築展に期待しています。この100年のあいだに、各国が近代化とグローバリゼーションをどのように受容し変容したか、という社会や制度についてのリサーチを、図面や模型、写真や映像、ワークショップやプレゼンテーション、オーラルヒストリーや数々のドキュメントといったものの網羅性と、それらを俯瞰する観測地点とによってアーカイブすることが、はたして・どのようにして、「今、可能なのか」に興味があります。
●A3
政府が建設現場の外国人雇用拡大を検討しているというニュースがありました
。東北復興やオリンピックの建設現場では人材不足が深刻だということです。ヨーロッパでは、同じように建設作業要員として受け入れた移民や戦争・経済難民などを多く抱え、社会問題化していると聞きます。日本は、他の先進国に比べればまだ外国籍登録者は少ないようですが、これから多くの外国人の労働力を必要としなければならないことに対して、どのような日本社会にしていくのがいいのか、政治家・国民の関心はそれほど高くないように思います。大量の人間が一度に空間を移動するということには、どういう問題があるのか、どういう解決方法があるのか。スタジアムと周辺の歴史的・文化的な空間の取り合いについてだけでなく、それを支える制度的な空間の変化について、もっと議論が必要であるように思います。当のオリンピックについては、東京ベイゾーンの諸施設をコンペで決めるという話も聞かないし、一連の、さまざまな立場からの発言や議論に対する当局からの回答も聞いていません。オリンピックは6年後の一時の祝祭ですが、政策の一つひとつも一時の勢いでなされることがないように期待したいです。