ENQUETE
特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<永井幸輔
●A1
2013年は、共同企画者として参加している「ファッションは更新できるのか?会議」のセッションをまとめた報告書(ジン)
- 『ファッションは更新できるのか?会議 報告書』(2013)
昨今発展しつつある法分野として、「Fashion Law」に対する注目が国際的に高まりつつある。2000年代後半以降、フォーダム大学やニューヨーク大学などの複数のロースクールがFashion Lawのカリキュラムを設け、2010年にはファッションと法律に焦点をあてた学術機関「Fashion Law Institute」
日本では、Fashion Lawを積極的に取り上げようとする動きはほとんど目立たず、上記『Fashion Law』の類書も見当たらない。従来から、日本におけるファッション分野への専門性の高い法的マネジメントの提供は、十分だったとは言い難いだろう。加えて、インターネットを利用したプロダクトの小規模な資金調達―製造―流通―販売が実現し、若いデザイナーが活躍の場を広げつつあるいま、その活動を持続的に行なうための法的マネジメントの必要性は明らかに増している。
上記「ファッションは更新できるのか?会議」では、主要なトピックのひとつとして「法律」を取り上げた(vol.3「ファッションのリーガル・デザイン──法律家による分析と提案」)。また、同会議では、たんなる法的マネジメントだけでなく、ジョアンナ・ブレイクリーが紹介したような 、法的な視座がファッション・デザインにもたらす新しいクリエイティビティにも着目した。例えば、THEATRE PRODUCTSの「THEATRE, yours」 は、通常オープンにされることのない服の「型紙」をCreative Commonsライセンス のもと「改変可能」の条件で公開し、ユーザーが自ら服をつくることの楽しさを、またデザイナーの創造性がユーザーのもとでどのように連鎖して広がっていくのかをデザインしている。インターネットやデジタル・ファブリケーションによるファッション・デザインや制作環境の変化を踏まえ、クリエイションに対する理解のもとでデザイナーと協働できるFashion Lawのあり方が今後一層重要になるだろう。
- ジョアンナ・ブレイクリー「ファッション界の自由な文化から学ぶこと」(TED、2010)
●A2
Europeana Fashion portal
絵画、映画、写真、文献などのデジタル化した文化遺産の巨大電子図書館「Europeana」
国家規模で急進されている欧米と比べ、日本のアーカイヴィング政策は予算規模としても小さく、見劣りすると言わざるをえない。ただ、今年1月には国立国会図書館による「図書館向けデジタル化資料送信サービス」 がスタートして話題になっており、幸先のよいスタートを切ってもいる。今後は、公によるアーカイヴィングのさらなる推進に期待しつつも、アーカイヴを利用して新たなデザインを生み出すデザイナー側の動きにも着目したい。
coromoza
ファッションデザイナー向けのコワーキングスペース「coromoza」
2013年のオープン以来、多様なファッション関係者が集う、情報共有やデザインの実践の場になりつつあり、次代のファッションが生まれる拠点になる予感を感じさせる。
●A3
東京オリンピックの開催決定以来、「東京デザイン2020フォーラム」
他方で、そのような場に法律家が同席することは少ない。都市計画や建築法制に代表されるように、都市の「ソフト」面である法制度は都市の物理的な造形にも、都市に集う人々の行動にも大きく影響を与える。その意味で、都市における法制度のあり方は都市のデザインに不可欠な一部でもある。
例えば、大阪の老舗クラブ「NOON」が摘発された事件で表出した、風営法によるクラブの深夜営業規制の問題などもその一部だろう。現在の風営法の基準を適用すれば、すべてのクラブは深夜1時以降に営業することはできない。2020年、東京オリンピックが開催された夜に、来日した外国人が、ほとんどのクラブのシャッターが下りた街を見たとき、本当に東京を魅力ある都市に感じるだろうか。都市の安全という視点はもちろんだが、どのような都市に住み、どのような都市文化を育てたいのかという視座のもとで、魅力ある都市をデザインするための法として風営法をとらえることもできそうである。関係各者がそのように知恵を寄せ合うことで、より良い風営法のかたちを模索できるのではないか。
2020年の東京オリンピックは、東京という都市のグランド・デザインを再考する重要な機会であり、その機運も高まっているように感じる。新国立競技場のザハ・ハディド案を巡る活発な議論もその現われだろう。このタイミングは、法制度のリビルドを行なう時期としてもうってつけの筈だ。建築家やデザイナー、研究者とともに法律家が議論に参加することで、法制度も含めた新たな都市のデザインが見えてくるかもしれない。ただ、6年という時間は都市のあり方を変える時間としては長くない。改正に時間のかかる法制度についてはなおさらで、あまり余裕はないだろう。
法をデザインの一部と考え、デザイナーやクリエイターとの協働のなかでよりよい状況やコミュニケーション、クリエイティビティを作り出すこと。東京オリンピックに向けて、その実践を重ねて行きたい。