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特集:201401 2013-2014年の都市・建築・言葉 アンケート<

有山宙

●A1

コロガルパビリオンと異常な天候

2013年7月28日未明、激しい雷の音で目を覚ます。
数日前から、常時何種類もの天気予報をチェックしていたから、大雨に対する心の準備はできていた。1分もかからず着替えをすませると、2階で寝ていたはずなのに、いつの間にか同じく準備ができている会田大也氏★1とともに家をでる。車で中央公園へと向かう途中、大粒の雨が落ちてくる。数分で、中央公園に到着し、26日にオープニングを迎えたばかりのコロガルパビリオンへ向かう。
すでに、公園の芝の上にはうっすらと水がはり始めていた。その日の大雨を予想し、前日の夜までに取り付けた雨水の排水システムは、問題なく機能しているようだ。ひとまずは安心。「排水システムの実証実験にはちょうど良い」。そのときはまだ、そんな軽口をたたく余裕もあった。
外の雨はますます強くなる。公園の芝の上の水位も瞬く間に上昇し、コロガルパビリオンの床に水があがってくる。突風が吹き、テント屋根は大きく浮かびあがり、二つあるコロガルパビリオンのもう一方から、山岡大地氏★2の叫び声が聞こえた。慌ててそちらに向かうと、屋根のテントがもっこりと垂れ下がり、テントの上に風呂桶ほどの水が溜まっていた。テントの上にたまってしまった水は、その重さでますますテントを引っぱり、屋根全体の雨を集めるようになる。そのまま、雨が溜まり続ければ、コロガルパビリオンの構造はもたないだろう。会田氏の活躍によりテントにたまった水を排出することはできたが、そうこうしているうちに、もう一方のコロガルパビリオンの排水システムが倒壊していた。
雨は止む気配がない。身の安全を優先するために、コロガルパビリオンの責任者である会田氏の判断で、コロガルパビリオンを放棄することを決めた。コロガルパビリオンから全館停電中のYCAM館内に避難して、ほどなくして雨は止んだ。公園全体に膝まであがった水位も、瞬く間に下がっていった。
山口島根豪雨と名付けられたこの雨は、山口市で1時間に143ミリという観測史上最大の雨を記録したという。

コロガルパビリオンとは、山口情報芸術センター(YCAM)の10周年祭にあわせて、隣接する中央公園に建てられたパビリオンだ。
高さ4メートル、直径25メートルと直径20メートルの二つのシリンダー状の建築の内部に、音響、照明、ネットワークなどのメディアテクノロジーが埋め込まれたスケートボードランプのような不定形な床面がひろがる。
建物の設計をassistantが担当した。10周年祭終了後には取り壊すことが決まっていたため★3、仮設建築物の建築基準法の緩和を適用し、また、組み立ておよび解体が簡易になるように考えたため、基礎を鉄骨で組み、屋根をテント膜とした。
今回、山口島根豪雨でのコロガルパビリオンの被害は、一部のデバイスの交換だけで済み、1週間の補修工事のあと無事に再開することができたが、コロガルパビリオンを通して、日本の気候、風土の変化をしみじみと肌で感じることとなった。ゲリラ豪雨を察知するアプリケーションをインストールした会田氏の携帯は、夏中、不気味なアラームを鳴り響かせ、9月の桂川の氾濫や、10月の大島の土砂災害、夏から秋にかけて、何度も「観測史上最大」という言葉を聞いた。
気候、風土にあわせて、長い年月をかけ最適化されてきたであろう建築が、急激な気候の変化ついていくのは難しい。

コロガルパビリオン
提供=山口情報芸術センター [YCAM]
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]
撮影=丸尾隆一(YCAM)
Photo: Ryuichi Maruo (YCAM)

★1──YCAMの教育普及担当、コロガルパビリオンの責任者
★2──コロガルパビリオンのプレーリーダー
★3──会期終了が近づくにつれ、自然発生的に子どもたちから、コロガルパビリオンを存続させるための運動がはじまった。子どもたち自らポスターをつくり、存続のための署名運動をはじめ、最終的には1,000を超える署名が集まった。現在は山口市で対応を協議中。

●A2

ヴェネチア・ビエンナーレ建築展のナショナルパビリオン展示

●A3

2020年の前に、まずは2014年ブラジル・ワールドカップの様子が怪しい。どうやら、大きな問題を抱えているらしい。とくにおもしろいのは、サッカー界の悪童、ロマーリオが猛烈に2014ブラジル・ワールドカップを批判しているということ。日本でも有名な、1994年ワールドカップMVPのブラジル人FWは、2010年から政治家に転身している。国民的スポーツ・スターが政治家になるのはどこの国でもよくあることだが、その政治家が、自身のバックグラウンドの国家イベントを批判するのは、あまり聞いたことはない。ロマーリオは、病院や学校が資金不足に苦しむなか、多額の公的資金がスタジアム建設に費やされることを懸念している。とてもまっとうな意見だ。FIFAはイベントの収益ばかり気にして、イベント後のブラジルのことなど何も考えていないと。国立競技場に問題提起する建築家という図式を含め、2020年の東京とよく似ている。
そして、2020年の東京を飛び越えて、さらに深刻に見えるのは、開催自体が危ぶまれている2022年カタール・ワールドカップ。こちらは、真夏の砂漠で、サッカーをすること、観戦すること自体に疑問が投げかけられている。スタジアムに冷房を完備したとしても、スタジアムの移動を含めて、観客への影響が大きすぎるというのだ。さらには、スタジアム建設の出稼ぎ労働者たちの労働環境の悪さも指摘されており、建設が滞りなく進むのかも怪しくなってきた。そして、最近発表された、カタール・ワールドカップのスタジアムのひとつも、ザハ・ハディドの設計だった。


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