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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

林憲吾

●A1
2012年は、1992年にブラジル・リオで開催された「国連環境開発会議」(通称、地球サミット)から20年にあたる。そのフォローアップ会合として開かれた「Rio+20」は、この20年での地球環境問題の日常化や課題を浮き彫りにしていて印象的だった。米本昌平『地球環境問題とは何か』(岩波書店、1994)によると、92年の地球サミットは、地球環境問題をポスト冷戦の新たな脅威として国際的な政治課題にまで押し上げた画期である。気候変動枠組条約や生物多様性条約などの署名により、環境は社会や経済の制約条件となった。いまやCO2削減といった言葉は日常に溢れ、「Rio+20」 が環境の会議として特段目を引くものではなかったように、地球環境は広く社会に浸透した。けれども、それは順風満帆の証というより、ちょっとした閉塞感を漂わせている。今回のリオでは、「グリーン経済」や「包括的な豊かさに関するレポート(Inclusive Wealth Report 2012)」が注目を浴び、環境と経済の両立が大きな関心事だった。しかし、これはブルントラント報告をはじめ20年以上にわたる理念であり、むしろ課題の大きさこそが強調される出来事だった。

●A2
2012年夏、原研哉さんと一緒にインドネシア・ジャカルタ郊外にあるボゴール植物園に行く機会があった。講演のためにジャカルタに来ていた原さんは、熱帯植物の成長力に着目していた。熱帯の植物は、温帯とは違い成長のスピードが速く繁茂する。熱帯のデザインとは、植物のなかにまちがあり、暮らしがあり、最先端のデバイスがある、そんな世界じゃないかと構想されていた。というわけで、熱帯の植物園がどんなものなのか見るため、偶然調査でジャカルタに居合わせていた僕らが案内する運びとなった。建築家たちによる犬のための建築「ARCHITECTURE FOR DOGS」や北京で進行中の街並みの可視化プロジェクトの話など、ランチの席や移動の車中でMacを使っての即興プレゼンが見れ、案内したこちらが贅沢なショート・トリップだった。実際の植物園は少し物足りなかったのではと思うのだが、会話の端々から察するに、遙かに魅力的な熱帯の植物園のアイディアをすでに頭のなかに描き始めていたように思う。いつかそれが出てくるのが楽しみだ。
と、そんな展開があったのも、原さんが主催するHOUSE VISIONのメンバーである土谷貞雄さんらと一緒に、インドネシアで住まいをテーマにしたアンケートやWEBサイトづくりなどを進めているからだ。「家」に関連した産業には、既存の住宅産業を超えて、多様な産業が含まれる。それら産業をひとつのフィールドに集めて、これからの「家」を創造していく試みがHOUSE VISIONだが、そのひとつの成果として2013年3月から「HOUSE VISION東京展2013」が実施される。熱帯のカフェのベランダで聞いたHOUSE VISIONの構想が、どのような形になっているんだろうかと、こちらは直近の楽しみだ。

HOUSE VISION 2013 TOKYO EXHIBITION(2013年3月2日~24日)


●A3
震災後、岩手県大槌町で東大・村松研究室が中心となって実施している調査(代表:岡村健太郎)に今年も少し関わらせてもらった。京都精華大学の学生さんとともに、今年度は吉里吉里二丁目での生活復元調査を行なった。対象地区は昭和三陸地震の後につくられた約90世帯ほどの高所移転地区で、今回の津波で被害を受け、建物の大半が流されて基礎のみが残った。残った基礎を実測し、それを頼りに仮設住宅に暮らす住民の方に話を聞きながら、かつての住まいを復元し、住民の方にも清書した図面を贈呈するというのが、今回の調査内容だった。たとえわずかな基礎であっても、それがあることで住民の記憶に刻まれている生活や風景を共有できる。瓦礫や基礎など、残ったものは次第に撤去されていく。しかし、撤去が進む一方で、記憶や記録のなかだけになってしまったかつての風景が、新たにその地域と関わることになった多くの人々との間で次第に共有されていくというプロセスもまた、復興にとって大事なのだと思う。
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