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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

足立元

●A1

ここでは、2012年に開催された、かつての東京の姿を描いた美術家たちによる展覧会のいくつかを紹介したい。今流行の都市の表現も、いずれ時代遅れのものとなり、以下に挙げる画家たちの絵と同じような哀愁を帯びるときが来るだろう。あるいは逆に、そうした古い時代の都市を描いた絵を見つめることで、現在の都市の風景が豊穣なものとして見えてくることもあるはずだ。現代を捉え返すためには、何度でも近代の不穏なものを召還する必要がある。

明治期の東京について

○「近代洋画の開拓者 高橋由一」展(東京芸術大学大学美術館他)
この展覧会で紹介された水彩やスケッチ帖には、江戸時代の趣を残す明治初頭の東京の風景が描かれている。もっとも、美しくまとまった展示は武骨な由一には何か綺麗すぎる気がした。
○「維新の画家 川村清雄」展(江戸東京博物館)
同時代の旧派の洋画家の展覧会としては、こちらのほうが面白かった。清雄の足跡を追ってフランス、イタリアまで調査してきた成果は、大河ドラマのような展示構成に結実した。


大正期の東京について

○「すべての僕が沸騰する 村山知義」展(神奈川県立近代美術館葉山他)
村山は、1923年の関東大震災を経験した美術家の一人である。彼と仲間たちの仕事には、今日の震災と美術の関わりを先取りした部分もあった。



昭和戦前期・戦後直後の東京について

○「生誕100年 藤牧義夫」展(神奈川県立近代美術館鎌倉)
突然行方不明になった版画家の展覧会。大規模なパノラマの《白描絵巻》では、都市の姿が圧巻だった。
○「小野佐世男 モガ・オン・パレード」展(川崎市岡本太郎美術館)
戦前の都市の猥雑な匂いに溢れた絵は、戦争へ傾斜していく時代の不穏な状況も伝えてくれる。日本が占領していた頃のインドネシアを描いた絵も必見。
○「生誕100年 松本竣介」展(神奈川県立近代美術館葉山他)。
都市の哀愁あふれる情景を描く。戦争を生き抜いた画家というロマンチックな要素の誘惑に引っかかるまいと、いくら用心しながら見ても、優れたところに気になる。


●A2

自分の予定に過ぎないのだが、2月1日から3月26日までアメリカ・シアトルのワシントン大学に滞在する。アメリカに行くというと、何を勉強しにいくのかと聞かれることが多いけれど、むしろ教えに行く立場である。もちろん、いろいろなかたちの成果を持ち帰りたい。4月からは、学振の期間も終わって、いよいよフリーの書き手となる。歴史についての執筆は同時代に向けた仕事に他ならないと思っているが、時事的な評論の数も増やしたい。生産性の向上と守備範囲の拡大が課題。
共著で関わっているものには、『日本近現代美術全史』(東京美術)、『美術出版ライブラリー日本美術史』(美術出版社)、『新発見!日本の歴史』(朝日新聞出版)、『日本美術全集』(小学館)がある。これらのプロジェクトをこなしつつ、次の本の元になる論文をいくつも書き進める。


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