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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

五十嵐太郎

●A1 
◉2012年の6月、カッセルのドクメンタを初めて訪れたが、想像以上に街なかのあちこちに展示を分散させていた。それどころか、ドイツ以外にアフガニスタンやエジプトにも別会場を設け、国境すらも超えていたのである。また、こんなに小さな町が世界的に有名な国際芸術祭を開催していることに改めて驚き、長く継続していることの強ささえあれば、本当はどこでも成し遂げうるはずだという希望も与えてくれた。

◉7月に立ち寄ったザハ・ハディドのソウルの《東大門デザインプラザ&パーク(DDP)》はだいぶ全容が見えてきたが、正直あまり空間がよくないのではと思った。一方、10月に訪れたローマの《国立21世紀美術館(MAXXI)》は見事な建築だった。個人的には当たり外れが大きい建築家である。11月、彼女は国際コンペに勝利し、東京の新国立競技場を設計することに決まった。日本では、是非いい結果を出してほしい。

◉9月に訪れたドバイは世界一高い《ブリュジュ・ハリファ》よりも、各駅に接続しているテーマ性の強い巨大なショッピングセンター群が印象的だった。人工化的な世界の構築に向かうひとつの極を示している。

◉12月、筆者が企画した「3.11──東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」展がケルンの日本文化会館に巡回し、レクチャーをするために、20年ぶりにこの都市を歩く機会を得た。ペーター・ツムトアの《コロンバ美術館》が圧倒的に素晴らしかった。古代ローマの遺跡、戦争で破壊されたゴシックの教会を抱え込みながら、その上部にアートの場がつくられている。建物の内部にはっきりとした輪郭をもった部屋が出現し、そのあいだの空間にも個性的な展示の場を生む。また、ところどころもうけた大きな開口は、大聖堂など、都市の風景を効果的に見せる。中世の美術と現代アートを混在させる展示のセンスも秀逸だ。時代を超えたリノベーション建築の傑作である。

●A2
◉言うまでもなく、筆者が芸術監督として関わっている「あいちトリエンナーレ2013」。強いテーマ性を持たせつつ、建築の視点をどう持ち込めるのかが、重要だと考えている。

◉丹下健三の生誕100年ということで展覧会のほか関連企画が企画されている。生前も亡くなった後もなかなか展覧会が開催されなかっただけに、どうなるか楽しみだ。

◉国際交流基金の委員会においてその選考を担当したということで、ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展2013の日本館における田中功起の展示。3.11への直接的ではなく、つかず離れずの距離をたもちながら、どのような作品が生まれるかに期待している。

●A3
◉やはり、被災建物がどのように残るかなど、記憶の問題である。これは「あいちトリエンナーレ2013」のテーマにも設定した。また、東北大学の五十嵐研究室で担当し、彦坂尚嘉の参加によって塔と壁画のある集会所を実現した南相馬市の仮設住宅地のプロジェクトが第2フェイズに入った。秋から池田剛介や原高史などのアーティストを迎え、住民とのワークショップを通じて、新しい展開が起きている。

◉学芸員の山内宏泰が中心となってリアスアーク美術館が、東日本大震災に関して、どのような常設展示を2013年からスタートさせるかに注目している。311で被災した施設だが、まさにいま後世に語り継ぐべき歴史の瞬間を体験したからだ。今後、おそらく新しいつくられるであろう箱モノの津波ミュージアムが獲得しえない現場性をもつのが、リアスアーク美術館である。またアーキエイドの活動は、リサーチやワークショップを経て、いよいよ本格的な実施プロジェクトが出てくるだろう。建築家が社会と接続しうるか、という課題にとって、重要な試金石になるはずだ。
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