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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

有山宙

●A3

3.11とアーティスト

「3.11をテーマにした展示を企画している」と、キュレーターの竹久侑さんから聞いたのが、いまからちょうど1年前、2011年の年の瀬だった。
年が明けてしばらくして、10月から水戸芸術館ではじまる「3.11とアーティスト:進行形の記録」に会場構成として関わることになった★1。タイトルが示すとおり、この展覧会は、完成した作品を展示するというよりは、アーティストの活動自体に焦点を絞り、3.11以降同時多発的に起きた活動を俯瞰するための記録である。
この展覧会では30にもおよぶ、とても多い数のプロジェクトが展示されることになるが、それでも、展示されたプロジェクトは、実際に3.11以降に行なわれたアーティストの活動のほんの一部でしかない。
そこには、展示するプロジェクトの選定という、明確なキュレーターの意図が介在しているにもかかわらず、その意図が多く語られることはなかった。
つまり、カタログでも語られているように、あらかじめ「キュラトリアルなリスク」は折り込み済みではあったが、空間として、可能な限りその「キュラトリアルなリスク」を排除したいと思った。
そのような経緯から、アーティストに対しても、キュレーターに対しても、公平であるような空間を目指してできたのが、白いシートによる空間だ。
白いシートは、時間軸のメタファでもあり、白いシートの前に置かれた作品は、どれも入れ替え可能ともいえる。実際、展示の数週間前まで、展示作品の更新が行なわれた。
そして、展示空間は展覧会が開催された時点を反映している。それが、〈作品〉との大きな違いだ。
強烈な記憶でさえ、徐々にうすれていく──。「現在形の記録」が、また別の時点で行なわれることがあるとすれば、一部の作品とともに、展示空間はまったく別のものになるのだろう。これは、3.11から19カ月を経てはじまった展覧会の空間だ。

「3.11とアーティスト:進行形の記録」会場施工中

★1──3.11とアーティスト:進行形の記録(水戸芸術館、2012年10月13日〜12月9日)
URL=http://arttowermito.or.jp/gallery/gallery02.html?id=331

●A1

Which is moving: people or architecture

「3.11とアーティスト:進行形の記録」の会場を検討しているとき、東北と東京を行ったり来たりしていた(もちろん、その間に水戸がある)。夏に、国際芸術センター青森(ACAC)とせんだいスクール・オブ・デザイン(SSD)で滞在制作することになっていたからだ。
「Which is moving: people or architecture」とは、SSDの滞在制作にさきがけて行なわれた開講記念レクチャーのためにつけたタイトル。制作とはまったく関係なく、レクチャー告知の締め切りのためだけに考えたタイトルだった。それが、結果的に2012年の活動を示唆する言葉になる。

東北で制作するにあたり、まず決めたことは、壊すものをつくらないということだった。
大きなインスタレーションは、展示終了後に壊すのが常識になっている。ほとんどの壊さないでよい作品は、展示に終わりがないか、小さい作品かのどちらかだ。
空間を体感できるインスタレーションで、会期が終わっても壊さないために、実際に奈良で建設中の《33年目の家》の一部を仙台と青森で制作することにした。もちろん、そのためには、展覧会と建築というまったく別の政治、経済をうまくまとめなければいけないが、展示終了後に作品を一度解体して、奈良に運び、組み立て直すこと自体は、それほど難しくはない。
そもそも、《33年目の家》は鉄骨造の屋根と、その中にあるいくつかの小さな構造物からなる住宅で、このいくつかの小さな構造物を、ぼくたちは設計当初からパビリオンと呼んでいた。
それは、鉄骨の屋根が雨風をしのぐことを想定することで、中の構造物の仕上げを簡易にすることが可能になり、また、およそ展覧会の空間を設計するように、「家族の記憶をどのように配置するか」に重点をおいて、設計した建築だったからだ。そういう意味で、まるで端から、展示することが想定されていた建築のようにも思えてくる。
このパビリオンを、インスタレーションとして再構成したのが、《Ghost House》(せんだいスクール・オブ・デザイン、2012)と《Obscure Architecture》(国際芸術センター青森、2012)だ。展示が終わった後には、奈良で恒久的に設置される建築が、それぞれ、仙台と青森の光と反応した。
展示のためにつくられた美術作品が、そのまま建築となり人が住む、僕の知る限り世界で初めてのプロジェクトになった。

assistant《Ghost House》(SSD、2012)



assistant《Obscure Architecture》(ACAC、2012)

●A2

《33年目の家》

《Ghost House》と《Obscure Architecture》はすでに、奈良に運ばれ設置された。展示のため、工期は当初の想定より遅れたが、東大寺に隣接する土地に青森と仙台を旅してきた建物が完成する(2013年2月)。
また、夏には山口情報芸術センター(YCAM)の10周年記念祭のためにパビリオンができる(2013年7月)。

奈良でもう一度組み立てられるパビリオン
以上すべて撮影=assistant

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