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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

千種成顕

●A1

望京SoHo、新国立競技場コンペティション

中国においてザハ・ハディドの設計した《望京SoHo》が模倣され、本物より早く竣工するかもしれないというニュースが年末に流れてきた。中国のコピー建築については一年を通して興味深く観察してきたが、これは設計者の問題というより中国自体の問題である。ここ2年ほど、私の住んでいる中国寧波市では建築プロジェクトにおける設計料が安くなっている傾向にあるという。ただでさえ先進国に比べて極めて安く設定されている設計料がより安くなっているのだから、プロジェクトの大規模化、作業の効率化を背景にコピー建築が次々と生まれるのも納得できる。職業訓練的な設計教育にも問題があるだろう。
ただ、僕の周りの中国人は「そんなこと言い出したらすべての中国の建築は模倣でしょ。意味がないよ。もう少しバレないようにやればよかったね」というようなことも言っていた。中国に住むことでこういった問題と向き合う倫理感のバランスが常に試された一年であった。
また、先日行なわれた新国立競技場コンペにおけるザハ・ハディド案の勝利は非常に興味深かった。コンペ自体の間口の狭さや日本性のようなものが見当たらないザハ案が日本の国家プロジェクトで一等を取ることをネガティヴにとらえる見方もあるかもしれない。しかし、一方で安倍内閣発足も相まって社会は保守化、右傾化している状況があるなか、建築的状況のグローバル化を日本に引き寄せる可能性を感じる点、これ自体大きな問題提議となってますます日本的な建築の議論もなされることが期待できる点からこの案をたいへんポジティヴに受け止めた。

●A2

体育館プロジェクト

筆者は2011年の2月に寧波市に居を移して制作活動を行なっている。7月ごろ地元寧波市の体育館のコンペに提出した案が、プレゼンから4カ月ほどの待ち時間を経て、一等の知らせを受けたのでこの場を借りて紹介をさせていただく。
本体育館は試合用ではなく練習用の体育館であり、大小さまざまな運動施設のコンプレックスである。提案では要求プログラムを同じプロポーションだが大きさの異なる三つのヴォリュームに分け、背面の外廊下で接続させた。最小のヴォリュームの一辺を仮にxとすると、他の三つのヴォリュームの短辺は2x、3.5xとなるように拡大し、目地や開口部の大きさも比例するかたちで拡大するものとした。その結果、違う大きさの同じ比率の建築が並ぶ建築となる。中国の建築はたいへん規模が大きく、その大きさは非人間的でわれわれの身体感覚を鈍化させる。そういった問題意識から、建築の大きさの相対関係を過剰なほど明確にすることによって人間の身体感覚を刺激する建築を目指した。
中国は面子の国だ。建築関係者以外にも多くの人間の面子が交差する公共建築では思ってもいない展開もあるかもしれない。コンペに勝つことは建物を設計するためのスタート地点に立っているにすぎないと自覚している。一歩ずつプロジェクトを進めたい。

●A3

Ten Month After 3.11

2012年1月、友人らとともに東京藝術大学先端芸術表現科の展示会場を用いて「Ten Month After 3.11」というトークセッションを企画した。大友良英、イルコモンズ、高嶺格、八谷和彦、鈴木理策、山川冬樹、高山登ら、作家活動に東日本大震災との関連性が強い音楽家や美術家が招かれ、震災後10カ月間の活動の報告と原発問題を中心とした議論が行なわれた。個人的に今回のセッションで気になったのは四半世紀を宮城教育大で教鞭を執り、今回の津波で制作スタジオを流された彫刻家・高山登であった。1944年東京生まれの高山にとって焼け野原を見るのは今回が初めてではないと言う。焼け野原の反省がないまま高度成長を遂げた日本を見つめ、また作品制作を行なってきた高山は原発事故を日本の近代化の問題まで抽象化させており、長い歴史観を持ってゆっくり解決させていくくべきだと主張した。これは一年を通して何度も思い返され、形を変えながらもじわじわと思考の糧となった。

トークセッション風景

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