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特集:201301 2012-2013年の都市・建築・言葉 アンケート<

南泰裕

●A1

東京スカイツリーの完成/東京駅の復元

2012年は、東京スカイツリーの完成と東京駅の復元が、対比的な建築的出来事として、印象に残った。
この二つは、セントラル・イースト・トーキョーのきわめて局所的な事態であるものの、震災後のシンボリックな出来事として、多くの読みを誘う対象だったように思える。すなわち、垂直のシンボルとしての、東京タワーのヴァージョン2としての東京スカイツリーと、水平の最右翼としての、免震構造を背後に組み込んだ駅舎の復元という対比的出来事。それは、その周辺の都市的開発を含め、2010年代の東京においても、引き続き「経済的停滞のさなかでの大規模再開発」というスキームが、ねじれながら延命し続けていることを映し出すものであったのだと言える。

●A2

新国立競技場のコンペティション

新国立競技場のコンペティションにおいて、ザハ・ハディドの案が選出されたことには、大きな驚きを覚えた。おそらくは東京の都市景観を大きく変えるだけの影響力を持つ、そのデザインには、一定の留保が必要ではないかと感じている。が、その実現に向けて、今後どのようなプロセスが取られていくのか、注目に値する。

●A3

加藤典洋『3.11──死に神に突き飛ばされる』

加藤典洋氏による『3.11──死に神に突き飛ばされる』という書物には、そのタイトルにまずもって強い衝撃を受け、心して一つひとつの言葉をの呑み込んだ。そのタイトルとおり、ある年代以上の人間は、死に神にすら相手にされない、という指摘には唸らされつつも、3.11がもたらした現実の凄惨さには、いまだ、言葉ははるか、どう転んでみても具体的な力を及ぼしえないのではないか、という疑問が残り続ける。
言うまでもなく、3.11はいまだその傷跡を苛烈に残していて消えず、一方で見えない恐怖としての未来の3.11は、いつ起こるともわからないかたちで、私たちの足下を不意に揺らしてもいる。
不意に傷つき、病におかされ、そこからの治癒を目指しながら新たな病と事故の出現に備える必要があるというその様態は、ある実存的な次元で、私たちの人生そのものの表われを想起させる。
その意味で、3.11とは人が生きてゆくこと自体の、極限的でアレゴリカルな出来事であり、誰も避けることのできない日付の刻印であった。
この事態に対して、例えば素朴に「建築に何ができるか」というふうには、決して問うてはならないように思えるのだが。

加藤典洋『3.11──死に神に突き飛ばされる』(岩波書店)


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