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特集:201201 2011-2012年の都市・建築・言葉 アンケート<

有山宙

石巻の食堂で、元自衛隊員だという好青年らと共にヘドロを掻き出し終えたあと、営業を再開したばかりの銭湯で仮眠をとっているときにM7.1の余震が起こった。東北自動車道は通行止めになり、信号が消えた真っ暗な一般道を、東京へ向かって車を走らせた。辺りは真っ暗なのに、時々信号が付いている交差点に出くわす。重要な交差点だけ、別回路で電気が通っているのだろうか? それにしても、この国の電気インフラは脆弱だ。

東京を出発して、中央自動車道を走行していると、甲府を過ぎたあたりから、いくつものソーラーパネル群が見えてくる。それらは、だいたい一辺、数メートルから数十メートル程度の太陽光発電設備で、明らかに、家庭用の発電設備よりは規模が大きく(かといって、大きな会社が営業しているようには見えない)、実際、売電を目的としてつくられたもので、小さな発電所とでも呼ぶべき構築物だ。
山梨県は、年間日照時間が日本で一番長いらしい。
長坂インターチェンジを降りてすぐには、北杜市とNTTファシリティーズが共同で運営するメガソーラー発電施設がある。東京ドーム数個分はあるであろう敷地内に、無数の黒光りするパネルが、太陽に向けて並べられている。なにより異様なのは、2メガワット級の発電能力を持つこの施設では、増築を繰り返したように、なにひとつ統一感がなく太陽光パネルが並べられていることだ。もともと、メガソーラーの実証実験のためにつくられたため、太陽光パネルのメーカーや種類、設置する角度まで、微妙に変化が加えられ、比較検討が行なわれているからだ。雑木林を切り開いただけの敷地に、不揃いに並べられた太陽光パネルからは、ここが、日本のグリーン・エネルギーの重要施設であることを想像することは難しい。ぼくが想像していたのは、芝生の上に整然と並べられた太陽光パネルと、その横に建つピカピカの研究施設と白衣を着た研究者だった。
雑木林に建てられるソーラー発電所
筆者撮影

北杜市を、車で走っていると、地元のおっちゃんたちが、せっせと小型のソーラー発電所を組み立てている現場に出くわす。北杜市でいち早く、ソーラーパネルを自宅の屋根に設置したという、この道20年のパイオニア的おっちゃんは、ジャージ姿で、NTTファシリティーズのメガソーラーよりも自分の組み立てるソーラー発電のほうが、格段に効率が良いんだと言う。経験によって、最大の利益を得るためのパネルの角度と、架台の建設方法の関係などがわかったらしい。すでに、数百平方メートル規模の発電所を何カ所も持っていて、安い山林を見つけては購入し、ソーラーパネルを組み立てている。そうやって、発電した電力を、東京電力に売って、小遣いにしているのだ。まわりでは、本業は農家だというおっちゃんたちが、自分の裏山や休耕田にソーラーパネルを組み立てるたてめの策を練っている。米をつくるより、電気をつくるほうが儲かるというのは、ここでは常識のようだ。

2011年9月、アメリカのグリーン・エネルギー政策の期待を一心に背負った、ソリンドラ社が破綻した。
ソリンドラは、それまでフラットであったソーラーパネルの常識を覆し、チューブ状の集光パネルを並べて設置することで、あらゆる方向から光を集めることができる、まったく新しいタイプのパネルを製造していたソーラーパネル製造メーカーだ。古い考え方を打破する新興企業が大好きなヴェンチャー・キャピタリストらと共に、この革新的なアイディアに熱をあげたオバマは、この最先端企業のピカピカの工場を訪問し、莫大な資金融資を決定した。高失業率に悩まされているオバマにとって、ソリンドラは、新たな雇用(グリーン・ジョブ)を創出し、「未来はここから始まる」はずだった。

中国産ソーラーパネルとの価格競争についていけないことが、うすうすわかっていながらの、ソリンドラへの融資は、いまではオバマの失態として取り上げられているが、ソリンドラのソーラーパネルは確かに、アメリカ風に言うところの最高にクールなプロダクトだった。そして、ソリンドラが破綻したいまでも、多数ある反対意見のなか、オバマはグリーン・エネルギー分野への投資を続けている。もちろん、中国もパネル開発の速度を緩めることはない。
日本でも、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が成立したおかげで、今後も当分は小さな太陽光発電所が増えていくだろう。しかし、山梨の異様な風景が、日本全国に広がるのは、すこしばかり恐ろしい。2012年、東京の市街地や、京都の街並み、富士山の麓にもフィットする、ソリンドラのような革新的なプロダクトが、日本にもそろそろ現われてもよいころだ。

オバマソリンドラ訪問ニュース
URL=http://abclocal.go.com/kgo/video?id=7464020

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