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特集:201201 2011-2012年の都市・建築・言葉 アンケート<

松川昌平

2011年は、3月の地震・津波・原発の同時災害や7月のなでしこジャパンW杯初優勝など、日本中を揺るがすような初めての出来事がありましたが、個人的にも初めてづくしの1年でした。この8月に2年間にわたる初めての海外生活から帰国。9月には初めての共著『設計の設計』★1を上梓。10月には「コロキウム形態創生コンテスト2011」★2において初めてコンペの審査員を経験。そして11月には私の研究分野であるアルゴリズミック・デザインについての日本で初めての国際シンポジウム「ALGODE2011」★3に参加しました。2011年は私にとって忘れられない年になりそうです。本来ならばそれぞれの出来事についてより具体的に書くべきなのでしょうが、ここでは建築・都市には一見関係なさそうなテクノロジーから気づいたことについてを少しだけ書いてみたいと思います。

6月にアメリカのLytoro社から「light field camera」という新しいカメラが発表されました。WEB上で公開されているデモ写真★4を見るとわかりやすいのですが、ユーザーは写真内の任意の点をクリックすることで、その点に写っている対象に焦点を合わせることができます。通常のカメラのレンズでは焦点はつねにひとつしかありませんが、light field cameraでは、センサーの前に取り付けられた無数の小さなレンズが画角内のすべての光線を記録するので、任意の焦点を撮影後に合成することができるそうです。正確さには欠けますが、例えば小さなレンズが10行10列のマトリクス状に並んでいるとするならば、全部で100パターンの写真の可能性が一枚の写真に重ね合わされているわけです。一般的に写真とは、場所/時間/画角/焦点/絞り/シャッター速度などといった変数の組み合わせのなかから、ひとつの組み合わせを選びとる表現メディアです。しかし「light field camera」では、それらの変数のうち焦点だけは定数化せずに変数として保持されたまま写真としてパッケージ化されています。ですのでユーザーは100パターンの写真の可能性のなかから見たい対象に焦点があった写真をそれぞれ選択することができるのです。

では、焦点ではなくほかの値を変数のまま保持するとどうなるのか? その一例がImmersive Media社の360度パノラマ動画でしょう。私はこのテクノロジーを2010年1月のハイチ地震の報道★5で知りました。一見すると普通の動画ですが、画面内をドラッグすると、360度どこでも画角を移動させることができます。360度パノラマ動画では、時間と画角が変数として保持されたまま動画としてパッケージ化されています。ここでも無数の動画の可能性が同時に重ね合わされ、ユーザーはその可能性のひとつの動画を見ることになります。

では同様に、無数の建築の可能性を同時に重ね合わせた建築を構築することはできるだろうか? 『設計の設計』の「設計プロセス進化論」や『建築雑誌 8月号』に掲載された「不合理な建築の設計」★6という拙論を通して悶々と考え続けてきたことのひとつはこのような問いだったのかと、異分野のテクノロジーを見ながら気づかされました。

個人的な出来事や気づきに終始してしまいまして申し訳ありませんが、2012年には無数の建築の可能性を同時に重ね合わせた建築をより具体的に実装していきたいと思っています。


★1── 柄沢祐輔+田中浩也+藤村龍至+ドミニク・チェン+松川昌平『設計の設計』(INAX出版、2011)
★2──http://news-sv.aij.or.jp/kouzou/s17/collo2011/colloquium_contest.htm
★3──http://news-sv.aij.or.jp/algode/
★4──https://www.lytro.com/living-pictures/
★5──http://edition.cnn.com/interactive/2010/01/world/haiti.360/index.3.html
★6──http://ci.nii.ac.jp/naid/110008686679

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