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特集:201201 2011-2012年の都市・建築・言葉 アンケート<

ドミニク・チェン

●A1、2
震災と関連したオープン・データの動きとしては、放射能汚染マッピングの取り組みが多方面の草の根の動きから政府/研究所レベルのものまで国内外で数多く展開されました。政府や専門機関によるデータの公開と民間によるデータの可視化というスキームは従来から存在するものでしたが、放射線量データの測定と公開も民間団体や個人によって分散的に行なわれ、参照されるという状況は新しいものだったと言えるでしょう。なかでもSafecastGeigermap.jpは、オープンソース電子基板であるArduinoのような実世界指向コンピューティング・コミュニティの蓄積と、Google MapsやPachubeといったクラウド・プラットフォームの機能が融合し、今回の災害にあたって具体的に有用であることを証明しているプロジェクトであり、今後のオープン・データ/オープン・ガバメント体制の構築に有益な参照事例となっていると思います。

safecast / geigermap.jp

実世界環境データ以外では、著作物=コンテンツの世界で関連した動きもありました。

Architecture For Humanityの活動は以前よりクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの採用で注目していましたが、震災後に日本にチームを置いてさまざまな復興支援の建築プロジェクトを展開しておりリアルタイムで多くのプロジェクトが同時進行しています。るようですが、今後どのような成果に結実し、建築のオープンソース化の参照事例となるかということに注目しています。

身の回りにあるコモディティを防寒用具や照明器具に変えるアイデアやデザインを集めるOLIVEプロジェクトは被災地支援を動機として立ち上がったものですが、同時に被災地以外の都市環境の住民に対しても日常の異化をうながす恒常的なリミックス行為としてのデザインの可能性を改めて示してくれたと思います。主催者のNOSIGNERを招いて11月に渋谷で開催されたCCサロンでは、子どもを対象に秘密基地を作るオープンなワークショップを展開している極地建築家の村上祐資(http://www.artscape.ne.jp/artscape/blogs/blog3/3628/)さんより、CGM的に集められたデザインの安全面での脆弱性が指摘され、今後のプロジェクトの展開に有益な示唆が与えられました。その他でも今年は、昨年末にCC HOUSE展を開催された吉村靖孝さんが被災地に家を届けるex-containerプロジェクトを立ち上げたり、田中浩也さんの主導によってFablab Japanも鎌倉で開設され、実世界環境のオープン・コンテンツ/データ化が多方面で推し進められました。

OLIVE/ex-container/Fablab Kamakura/秘密基地ヲ作ロウ

こうした動きが震災とその社会的影響へのフィードバックとして活性化した側面が強いと思いますが、他方で震災以後、もしくは「平時」の運動として今後定着していくことが重要だと思います。
その意味でも今年夏にBanksyがプロデュースした英チャンネル4のTV番組「The Antics Roadshow」はあくまで自発的かつ享楽的に都市やメディア環境をハックする一連のアクティビスト/アーティストたちの活動の優れた系譜となっています。災害や動乱以外のトリガーによって、どのように再定義可能な社会環境を構築できるのかというヒントを改めて与えてくれました。

IEPE(Antics Roadshowより)

●A3
震災と原発事故、そして世界規模での金融不安によって、個々人の生活レベルにおいて社会基盤の脆弱さが露わになり、社会システム全体の可塑性が高まっています。クリエイティヴィティの分野においては、先述したようなプロジェクトの数々が生まれていますが、日本のTPP参加に合わせて著作権侵害の非親告罪化や保護期間の延長、法定損害賠償制度の導入等を米国に要求されていることや、米国の既得権益者に事実上の検閲と言論弾圧の権限を与えようとするSOPA(Stop Online Privacy Act)法案のような旧時代的な反動も起こっています。
現在、こうした政策決定のプロセスにどのように民意が反映されうるのか、そして民意をどのように集約していくのかという問題意識が前景化しています。文化の問題以外にも例えばエネルギー政策の転換や原発利用の是非を巡って、経済合理性の議論と感情的な反対論の衝突があるように見えますが、生産的な状況とは言えません。こうした状況の中、政治的な合意形成のプロセスや文化的な評価モデルがネットを活用してどのように変化できるかということに特に関心があります。その意味でも、現在津田大介さんが準備し、2012年に公開予定としているネット上の政治メディア(http://yakan-hiko.com/tsuda.html)がどのようなかたちで展開し、普及するかということは、日本の社会システムの更新にとってひとつの試金石となると思っています。この問題は、インターネット上のフリーカルチャーの文脈とも通底していると考えています。クリエイティブ・コモンズにおいてもライセンスを更新し、普及させる取り組みと同時に、作品の二次利用や二次創作のプロセスや経験を評価する体系の構築が求められるフェーズに入っています。これと関連して、例えば言語ミームの時間的推移を可視化するGoogle N-gram Viewerを活用するCulturomicsや、学習のインセンティヴと評価のオープン・スタンダードを目指すOpenBadge Infrasctructure、ニコニコ動画における二次創作の参照関係(コンテンツ・ツリー)に基づいた利益分配の構想、といったコンテンツ産出の粒度の高い分析/評価とその活用のモデル構築の動きに特に関心を抱いています。

openbadges/culturomics

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