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特集:201201 2011-2012年の都市・建築・言葉 アンケート<

大向一輝

●A1

東日本大震災では、筆者が関わる図書館や美術館・博物館といった文化施設においても建物が流されたり、蔵書・所蔵品の落下、破損などの多くの被害が出た。これに対する関連コミュニティの動きは早く、震災の翌日にはウェブ上で各施設の被害状況を共有し、救援活動につなげることを目的とした「saveMLAK」が立ち上がった。この手の情報共有の最大の障壁は、網羅的な施設のリストを誰も持っていないという事実である。その要因としては行政の縦割り構造や、私費で設立されリストに登録されていない施設の存在などを挙げることができるが、いずれにせよなにが失われたかを知る以前になにが存在していたかがわからないという状態であった。そこで、saveMLAKでは多くのボランティアによって14,000近い施設情報の整備、約700施設の被害状況の収集がなされ、この情報をもとに個別の施設に対する直接的な支援が行なわれている。本来であればリスト作りは平常時に行なう必要があるだろう。しかし、長期にわたるデータの維持管理を誰が担うのか、それを支える体制はどうすべきかなど、未解決の問題が山積している。それでも、わたしたちの記憶が消えてしまわないように、前を向いて議論を続けなくてはならない。

●A2

近年、ウェブ上の知識をどのように保存し、活用していくかについて活発な議論が行なわれている。そのなかで、ウェブの創始者であるティム・バーナーズ=リーは「リンクト・オープン・データ(LOD)」の構想を提示している。LODでは、文書単位のリンクで構成されていたこれまでのウェブよりも、さらに断片的でコンピュータが処理しやすいデータの単位で互いをリンクさせる。例えば「坊っちゃんの著者は夏目漱石である」「夏目漱石と正岡子規は友人である」といった情報をつなぎあわせることで最終的に書物に関する知識のネットワークをつくることができる。すでに、諸外国の中央図書館やヨーロッパ圏の美術館が保有するデータをLOD形式で公開する動きが進んでいる。各分野でLODが普及すれば、これらのデータを駆使した研究や新サービスが生まれるだろう。筆者らも国内の公共データをLOD化するプロジェクト「LODAC」を進めており、今後は都市・建築に関するデータをも対象にしていきたいと考えている。

●A3

日本科学未来館で開催中の「ウメサオタダオ展」(2011年12月21日〜2012年2月20日)に注目している。梅棹忠夫は大阪にある国立民族学博物館の初代館長であり、フィールドワークや情報論など多種多様な分野で活躍した研究者である。本展では梅棹の知的生産のプロセスを明らかにする展示などが行なわれている。前述のLODの動きなども含め、今後得られるようになる情報は質量ともに増大する一方であろう。その反面、人間の認識能力が飛躍的に高まるわけではなく、そのギャップが問題になり始めている。その点で、本展が対象とするような人間の活動のプロセスそのものに焦点を当てた企画は時宜を得ている。情報の少ない時代に多くの知識を生み出した梅棹と、情報爆発の時代に生きるわれわれとの対比を見ることができれば面白い。

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ウメサオタダオ展(日本科学未来館、2011年12月21日〜2012年2月20日)

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