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特集:201201 2011-2012年の都市・建築・言葉 アンケート<

福住廉

●A1
東日本大震災をきっかけにして考えていることは、原子力を大いに消費する社会から私たちはどのように抜け出すことができるのか、そしてこの問題についてアートはどのように私たちの想像力を広げてくれるのかということです。とりわけ後者の観点から注目しているのは、パンクバンド「切腹ピストルズ」の表現活動です。なぜなら、彼らは原点としての江戸へ回帰することを、音楽、デザイン、映像、衣裳、ライフスタイルなど、さまざまな表現形式によって、じつに美しく表現しているからです。

http://seppukupistols.soregashi.com/

なかでも魅力的だと思うのが、落語。画廊やライブハウスに自分たちで高座を設え、観衆を前に、それぞれ羽織姿で噺を披露するのです。専門的な技術があるわけではないぶん、当人の人間性が丸出しになり、それが噺の内容と重なって見えるところが、ほんとうにおもしろい。パンクといえばDiYですが、彼らの「チンピラ落語」を楽しんでいると、そもそも江戸時代にはみんなDiYで健やかに暮らしていたのではないかという気がしてきます。肉体と言葉だけで想像的な世界を幻視させる話芸。それは、本来的に誰もが話し手であり、誰もが聞き手でもあるという意味で、近代芸術が輸入されるより前から、私たち庶民の暮らしにとって不可欠な「アート」でした。それを、これほどまでにおもしろく、しかも、かっこよく、現在に甦らせているのは、「切腹ピストルズ」をおいてほかに知りません。「江戸」は必ずしも過ぎ去った時代ではなく、自分の身の回りからつくることができる。その想像力豊かなクリエイションの先に、わたしたちの未来があるはずです。江戸へ還れ。チンピラ落語が楽しめるのなら、ええじゃないか、ええじゃないか。

「衝動の落語展」@ギャラリーマキ(2009)より



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