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特集:201101 2010-2011年の都市・建築・言葉 アンケート<

有山宙

●A1

OMA「Preservation」とロンドンのケンジントン・ガーデンに計画されていたダミアン・ハーストの美術館


2010年のヴェネツィア・ビエンナーレにおいて、OMAの展示「Preservation」は、とても地味に見えた。 今年のビエンナーレのテーマは"people meet in architecture"であり、空間体験を提供する大型インスタレーションが並ぶなか、どちらかと言うと、どんな建築展にでも収まってしまいそうな、OMAによるリサーチとその展示は、正直に言うと、今回のビエンナーレではなくまったく別の場所で見たかった。そう思わせるほどに、2010年のヴェネツィア・ビエンナーレはとても印象的でこれまでの建築展にはない観客のイキイキとした感情に溢れていたのだ。

ただ、それでもなお、「Preservation」が2010年を通して、印象に残っているのは、ちょうど同じ時期にダミアン・ハーストの美術館構想を知ったから。
「Preservation」は、その名のとおり、「保存」に関するリサーチとプレゼンテーション。リビアの砂漠から自身のプロジェクトまで、写真や歴史的資料が展示されており、OMAの代表作である《ボルドーの住宅》は1998年の完成からたった3年で保存対象物として認定され、現在、世界の保存対象地域は地球表面積の4%に及ぶという、少しショッキングな事実を知ることになる。これらのリサーチは、ヴェネツィアの13世紀の建物のリノベーションを、建物のコンテンツを含めて計画するというプロジェクトのためでもあるらしい。
そして、OMAの「Preservation」とちょうど同じような時期に、こちらは、実現しないというニュースではあるが、美術家ではなく収集家としてのダミアン・ハーストが自身のコレクションを展示する美術館の計画があったことを知る。ケンジントン・ガーデン内の歴史的な建物のリノベーション・コンペで、結局はザハ・ハディッドを起用したサーペンタイン・ギャラリーが新しい美術館をつくることになったが、最終3案のうちのひとつが、ダミアン・ハーストによる案であった。
気をつけなければならないのは、ザハ・ハディッドとダミアン・ハーストではなく、サーペンタイン・ギャラリーとダミアン・ハーストがコンペで競っていたということであり、ダミアンは自身の作品のためではなく、自身のコレクションのための美術館をつくろうとしていたということだ。
OMAにせよ、ダミアン・ハーストにせよ、どちらも、建物そのものの"保存"に加え、建物の中にあるものも、"保存"の対象となっており、2010年、示し合わせたかのような同じようなタイミングで建築界と美術界のトップが、"保存"をテーマにしていたことを知ることになった。

OMAもダミアン・ハーストも、それぞれのプロジェクトの目的は、自分たちの作品を見せることではなかったが、もちろんだからといって、彼らが成功者として自身の経験や財産を人類のために還元しようとした訳ではない。彼らは、どちらも新しいものをつくるために、"保存"という概念を扱いはじめた。

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左=「Preservation」展示風景 筆者撮影
右=Damien Hirst, For the Love of God


●A2

"保存"というキーワードを透して見た2011年。上書きされていくものの保存。 自身が関わっていること以外、未来のことはなにもわからないので、自身のプロジェクトに関して。

現在assistantで東大寺に隣接する敷地で住宅の計画を進めている。当初の予定であれば、すでに出来上がっているはずのプロジェクトが2011年にずれ込んだのにも、"保存"が関係している。 敷地が東大寺に隣接するということは、当然のことながら歴史的景観の保存地区にあたる。そんな場所に新しく建物を建てるわけだから、もちろんいろいろな規制や条件が追加される。それがいったいどんな条件かというのは、それほど面白いものではないので割愛するが、いま、プロジェクトをすすめるにあたって、諸々の事情で「この敷地に昭和53年以前に、どんな建物が建っていたのか?」ということが問題になっている。
役所に保管されている図面は虫が食って解読不可能で、もちろんGoogle Street Viewのない時代。もし、Street Viewが30年以上前からあったとしても、Street Viewにはアーカイブ機能がないから、やっぱりいまの街並みしかわからないから使えない、などと、ひと通りの空想をひろげた結果、誰かの記念撮影の後ろにちょこっと映っている建物の写真はないのかと、地道に近所の人に尋ね回っている。たかだか、30年ちょっとのことで、もう誰の記憶も曖昧だ。

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有山宙+松原慈《33年目の家》、模型写真

記憶が曖昧といえば、2011年1月16日まで京都のradlab.で開催されているassistantの回顧展もそう。assistant設立から約10年間(実際には8年ほど)の全記録を網羅した展覧会では、あらゆるプロジェクトのあらゆるアイディアが並ぶ。今回のために、すべてのアイディアにプロジェクトに即した分類番号をつけ、約10年間の活動を一つひとつ見返していくと、自分の頭の中から、自分のアイディアが完全に忘れ去られることはないけれども、アイディアに紐付けられていたはずのリファレンスなどから、どんどん曖昧になっていっていることに気付く。
映画『インセプション』では、アイディア自体にもっとも価値が置かれ、重要なアイディアにはロックがかけられたりしていたが、自分のさして重要ではないアイディアにも時間と共にロックがかけられ、徐々に取り出しにくくなり、30年も経てば、そのアイディアは"Limbo"をさまよっているかもしれない。

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assistant展「すなわち、言いかえれば」、会場風景

PreservationというよりはArchiveと言ったほうが適切であるかもしれないが、ともかく、新しくなにかをつくるときに、前の物をこわすではなく、有形無形問わず、前にあったなにかの保存を考える時代になってきているのかもしれない。
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