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特集:201101 2010-2011年の都市・建築・言葉 アンケート<

志岐豊

ユーロ危機

2008年のリーマン・ショック以降も続く世界的な経済危機は、2010年に入ってユーロ危機として新たな段階を迎えた。本年初頭に明るみに出たギリシャ経済の危機は、その他の南欧諸国( イギリスの経済学者より「PIGS」という不名誉な呼称を与えられた)の財政状況を問題視することにつながり、各国に対する信用不安を引き起こした。先月にポルトガル国会で審議・採決された来年度の緊縮財政政策は、国民に対して経済後退の始まりを告げる出来事となり、建設業界においても、それまで限定的だった不況の影響が、業界全体に大きな影を落とし始めている。 欧州各地で大規模なストライキが発生し、欧州はまさに混乱の一年であったと言える。

上海万博とヴェネチア建築ビエンナーレ

2010年はまた、上海万博、そしてヴェネツィア建築ビエンナーレという建築に関する、あるいはそれと密接な関係のある国際イベントが開催された年でもあった。
上海万博は、「万博」が依然として「建築品評会」の側面を持っていることを認識させたと言って良いだろう。その数あるパヴィリオンのなかで、BIG architects設計によるデンマーク・パヴィリオンが印象に残った。自転車に乗ってデンマークの都市生活を体験するというコンセプトが、螺旋状の形態に現れている。パヴィリオン内をBIG architectsを主宰するビャルケ・インゲルスが自転車で走る動画がYouTubeにアップされ、その空間の疑似体験を可能とした。


BJARKE INGELS BIKES THROUGH DANISH PAVILION

妹島和世を総合ディレクターに迎えたヴェネツィア建築ビエンナーレでは、石上純也が金獅子賞を受賞した。「建築の極限を目指す」というコンセプトに支えられた建築は、倒壊するという象徴的な事件をともなったが、それがかえって彼のメッセージを強めることとなった。また、同ビエンナーレにも出展した藤本壮介は、2010年にスペインの建築雑誌『2G』『El Croquis』より相次いでモノグラフが出版されるなど、世界的に注目を集めたもう一人の日本人建築家であった。

建築動画

ゼロ年代後半より、オランダ人のイワン・バーン、ポルトガル人のフェルナンド・ゲラ、ブラジル人のレオナルド・フィノッティなど、「建築」をその主要な撮影対象とする、若手の「建築写真家」の活躍が目覚ましい。彼らは建築雑誌などに写真を提供するだけでなく、独自のウェブサイトを設け、雑誌よりいち早く竣工直後の建築写真を掲載する。それによって彼らのウェブサイト自体が建築情報サイトの役割をはたしている。彼らよりもさらに一世代若いブラジル人建築写真家ペドロ・コックは、「静止画」である写真に対して、建築物を撮影した「動画」を発表し、建築メディアに新たな視点を付与した。

Galeria Adriana Varejao / Inhotim, Brumadinho, Brazil from Pedro Kok on Vimeo.

「Global Ends」展

世界的に景気が停滞する一方で、上海万博のイベントに代表される新興国の隆盛。周縁国と言って差し支えないポルトガルで建築に携わる者にとって、建築雑誌やインターネットのページを彩る「建築の潮流」には、正直なところ戸惑いを覚えざるを得ない。建築はいったい、どこへ向かおうとしているのか。そのような疑問を抱くなか、11月19日より2011年2月26日まで東京のギャラリー間において開催されている「Global Ends」展は、そのタイトルが私を強く惹き付ける。「世界の果てに立つ7組の建築家の営為を通して、21世紀を切り拓く新たな価値観を見出す」という展覧会の前書きは、今日のような時代だからこそ私たちの心に響く。

リスボン建築トリエンナーレ

リスボンでは2007年に続いて、第2回リスボン建築トリエンナーレが開催されている(2010年10月14日から2011年1月16日まで)。前回、「Urban Voids」というテーマのもとに開催されたポルトガルにおける初めての国際建築展は、欧州各国はもとより、メキシコ、チリ、中国、そして日本など、世界各国から参加があり、成功裡に終わった。自国で開催する国際建築展の第一歩として、世界に対するポルトガル建築のアピールに成功した前回を踏まえ、2回目の今回はポルトガルで国際建築展を開催する意義が問われた。
「Let's Talk About Houses」というテーマを掲げた今回、メイン会場となったベレン文化センターでは、1956年のアリソン・アンド・ピーター・スミッソンによるプロジェクト、1974年から始まるポルトガルの革命直後の住宅不足解消を目的としたSAALの試みという二つの過去を参照する展示と並行して、ポルトガル、スイス、ノルディック諸国、アフリカ−ブラジルという4つの国・地域の住居に関する展示を行ない、世界各地のさまざまな地域、コンテクストの上に成り立つ住居についての考察を試みている。
カボ・ヴェルデ出身の移民が多く生活するリスボン郊外コヴァ・ダ・モウラ地区の住環境改善、そしてアンゴラの首都ルアンダにおけるシングル・ファミリー向け住宅の提案をテーマとした二つのコンペとともに、今回のトリエンナーレで注目すべきは、ポルトガルを旧宗主国とするアフリカ諸国やブラジルに関する展示にも重心を置いている点だ。それは欧州の周縁国ポルトガルが、かつて「中心」に位置した事実を思い起こさせる。「世界の果て」の先に新たな世界を発見したように、中心と周縁が表裏一体の関係にあり、その逆転がときとして価値観の大きな転換をもたらしたことは、歴史を振り返れば明白である。

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スミッソンズの住宅プロジェクトに関する展示「The House of the Future」

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ポルトガルの住宅プロジェクトに関する展示「"Let's Talk About Houses... " In Portugal」

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北欧諸国の建築に関する展示「The Nordic Connection」
すべてリスボン建築トリエンナーレ会場風景、筆者撮影

「Tradition is Innovation」展

われわれは何をもって発明と言うのであろうか? 従来の慣習、あるいは古き伝統を飛び越えたとき、その度合いによってのみ革新性は語られるのだろうか? それに対して、ポルトガルの建築家シザ・ヴィエイラの「伝統は革新への挑戦である」という言葉をもって、もうひとつの態度を表明したい。2010年半ばよりゴンサロ・バティスタとともに開始したポルトガルの建築家に対するインタビュー・プロジェクトは、そのインタビュー映像を中心とした「Tradition is Innovation──ポルトガルの現代建築展」(2011年夏、東京ほか)としてまとめられる予定である。

Interview 01 · João Trindade

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