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特集:201101 2010-2011年の都市・建築・言葉 アンケート<

高橋瑞木

●A1

職業柄、カオス*ラウンジやABR(ART BATTLE ROYALE)など、現代アートの現場がUstreamやニコニコ動画、DOMMUNEを活用していたことが印象に残っている。今年は日本各地で若手建築家やアーティスト、キュレーターが民家や空き店舗を利用してアートセンターをオープンする動きが目立ったが、彼らもUstreamを利用して、各地のアートセンターをつないだり、イベントやディスカッションのライブ中継を行なうことで、それぞれのネットワークを構築することを試みていた。しかし、カオス*ラウンジにしろABRにしろ、各地のアートセンターにしろ、ウェブ動画の活用はまだ手軽に自分たちの素の状況を発信することができる、ライブカメラあるいは簡易版テレビとしての機能的側面のみに留まっており、今後こうしたオルタナティブ・メディアの利用をどのように発展させるのか楽しみだ。
ウェブ動画隆盛の時代にあって、2010年は実は個人的にはラジオの魅力に再び開眼した年だった。とりわけIPサイマルラジオ「radiko」が筆者の地元茨城でも受信できるようになったことが嬉しい。来年はテレビがいよいよ全局デジタル放送に切り替わる。私もテレビの買い替えを考えなくてはいけないのだが、なぜかその気になれないのは、ラジオで十分満足できているからだろう。テロップやセットに頼ることができない、音声だけが勝負のラジオはパーソナリティの話芸や放送作家の着眼点がより試される。それに慣れると、多くのテレビ局がいかに莫大な金を使って無難で均質的(=退屈)な番組を視聴者ではなくスポンサーのために必死に制作しているかに気がついてしまう。その点、ラジオはまだ挑発的だ。某民放のラジオ番組が土曜日の夜にほぼ1時間、東京国立博物館の常設展の特集(ゆえに企画展のパブではない)を放送したときは、ラジオの懐の深さに驚いたものだ。そういえば村上隆氏のレギュラー番組もラジオだった。ラジオはインターネットやローカルネットワークとの接続可能性の幅も広く、今後も注目したい。

●A2

2010年のヴェネツィア建築ビエンナーレで妹島和世氏が初めて女性の総合ディレクターに就任したことは記憶に新しいが、2011年のアートビエンナーレでも総合ディレクターに初めて単独で女性キュレーターが就任することになっている。また、夏に開催される横浜トリエンナーレ2011でも総合ディレクターに逢坂恵理子氏、アーティスティックディレクターに三木あき子氏の就任が決まっており、彼女たちがどのような舵をとるのか興味深い。2000年以降、女性アーティストが美術史に果たした役割や、彼女たちをめぐるアートの制度を再考する出版や展覧会が再び目立つようになってきている。1960から70年代のフェミニズム運動を目撃した世代の女性たちがアートの世界でもディシジョン・メーカーを任されるようになる一方、その後の世代の女性アーティストたちの作品は多様化している。
このような状況を背景に9カ国から14名の参加する「クワイエット・アテンションズ ─ 彼女からの出発」展(2011年2月12日〜、水戸芸術館)を企画中だ。女性アーティストに焦点をあてた展覧会を組織することは、かえって女性アーティストのゲットー化を招くのではないかという心配もあるが、ゲットーにはおさまりきらない多声的な作品群を通して、女性アーティストたちの現在進行形を体験してもらいたいと思っている。会期中はかつて日本初の国際的なオルタナティヴ・スペース、佐賀町エキジビットスペースをオープンし、現在もアートディレクターとして精力的に活動中の小池一子氏や、現在のエクリチュール・フェミニンについて真摯に向き合っている小説家の川上未映子氏、建築家の乾久美子氏、アートを題材に小説を執筆している原田マハ氏など、各界で活躍する女性陣をゲストにトークやパフォーマンス、ワークショップを開催する予定である。
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