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特集:201101 2010-2011年の都市・建築・言葉 アンケート<

福嶋亮大

●A1
「都市や建築」というお題からは多少逸れますが、僕が2010年に実感したのは広い意味での「リアル回帰」と「擬似宗教化」の傾向です。例えば、「瀬戸内国際芸術祭2010」は当初の目標の三倍を超える92万人が参加したと言いますが、このイベントを支えるのも一種の「聖地巡礼モデル」。瀬戸内の小島に展示されたアート作品を見るために、オリエンテーリングの要領でフェリーを乗り継いで「巡礼」するわけです。
最大の見物のひとつと言える、安藤忠雄建築の《地中美術館》も「聖地化」が顕著です。そのきわめて硬質な空間において、ジェームズ・タレルの光の演出を通り抜け、モネの睡蓮が展示された部屋をぐるりと回り、ウォルター・デ・マリアの巨大な球体が鎮座する「神殿」に到達する......となると、これは一種RPGを模したテーマパークを思わせないでもありません。
「瀬戸内国際芸術祭2010」

DVDや新書は、細切れの時間を使えるという意味でパッケージの効率的な縮小に寄与しましたが、いわばその反動のようにして、二泊三日なり三泊四日なりの巨大なパッケージが消費される。「聖地化」や「擬似宗教化」は、そうしたパッケージの巨大化を可能にします。
周知のように、日本は展覧会がきわめて盛んな国です。例えば、2009年に開催された展覧会。1日当たりの平均入場者数で言えば、世界1位は「阿修羅展」(東京国立博物館)で、1日平均1万5,960人、次位が「正倉院展」で1万4,965人。さらに、「皇室の名宝展」「ルーヴル美術館展」と続いて、実に上位四つが日本のイベントで占められます。こうした集客パワーに、擬似宗教的構造が介在していることは言うまでもありません。
「阿修羅展」/「正倉院展」/「皇室の名宝展」/「ルーヴル美術館展」

要するに、適切な条件づけさえ整えば、人は進んでリアル空間で身体とカネと時間を投げ出す。現代日本は、一方のネット文化においては極端な記号化・ヴァーチャル化を進めながら、他方ではリアル空間を擬似宗教的にイベント化するノウハウも豊富に蓄積しています。そのヴァーチャル/リアルの進化が今後どう交差し展開していくか、これは2010年代のひとつの重要な文化的争点でしょう。
さらに、2010年のリアル空間絡みで言えば、平田オリザの主導する「劇場法」も、一種の「条件づけ」の問題を含みます。地元の劇場に定期的に足を運んでもらえるように、観客を条件づける。そのためにも、天下りの役人ではなく、あくまで演劇人が劇場を運営する、それによって表現の社会的責任を負うというヨーロッパのモデルに近づけるべきだというわけです。
かつて鈴木忠志が言ったように、日本では明治以来、演劇人が劇場を管理するという発想が弱い(小劇場のゆるい、ゲリラ的な身体性が突出するのもそのためでしょう)。その意味では、平田オリザは日本の演劇史において一度も成功していない試みを、ようやく2010年代に入って政治的にやろうとしているとも言える。もとより、劇場のようなハードウェアの改革は、政権交代のような「タイミング」の後押しがなければ実現できません。業界的には批判も強いらしいですが、僕はその行方を注視しています。

●A2
というわけで、北川フラム氏や平田オリザ氏の今後の仕掛けに注目しています。
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