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特集:200912 ゼロ年代の都市・建築・言葉 アンケート<

永山祐子

9.11

青木淳建築計画事務所で夜仕事をしていた時、モニターの画面上で飛行機がWTCに突き刺さった姿を目の当たりにした。目の前の出来事がまるでフィクションのようでリアリティがなかったのを覚えている。この出来事の前と後では決定的に何かが変わった。それまで、なんとなく補完されていた安住の地が根底からすくいとられてしまった。もう、どんな基盤もなんの保証もない。地球上のあらゆる場所、ほんの片隅の吹きだまりから恐怖は湧き出てくる。擦り傷を風にさらしたような、ざらざらとした感覚が心のなかに生まれた。それは今まで感じたことのないものだった。それからは生きている感覚を求めるようになった。何かリアルな生の証のようなものを。それは自分が造るものに対しても。明日何もかもなくなってしまうかもしれない、そんなかけがえのない "今この瞬間"を誰かと共有するために造りたいと思った。だから私は物質として残すよりも、受け手側のなかに瞬間的に残るものを造りたい。だから現象というものに興味がある。

Google ストリートビュー

今、どこか特定の場所の話になったとき、必ずググる。そしてとりあえずストリートビューで歩いてみる。実際にその場所に行く。すると、そこにはストリートビューで一度みたことのある風景が広がっている。デジャ・ヴュ。ストリートビューの登場で都市はすべてデジャ・ヴュになってしまった。地球上の大半の場所は平等にインフォメーションが与えられ、秘密の場所が消えていく。都市の捉え方も変わった。都市を思い浮かべた時の俯瞰的で漠然としたイメージは、ヒューマンスケールの細切れになったディテール映像のコラージュによって、リアルな仮想イメージを持つようになった。それは俯瞰的志向性ではなく、ディテールから出発していく志向性へと変わった若い世代の設計手法にも関係がある気がする。

新しくなった Google マップのストリートビュー

同世代(70年代)

私が独立したのは今から7年前。ゼロ年代がはじまってから私と同じように多くの同世代建築家が世の中に出てきた。同じ世代の建築を見るとやはりこの世代特有の感覚があるように感じる。その感覚は、都市の捉え方の変化と符合するように、細部から全体をとらえ直そうとする。都市的スケールや大きな体制からスケールダウンしていく従来の思考の順序とは逆の方向性が強く意識されたように思う。私たち世代が自分の身の周りの世界を意識し始めた時、取り巻く世界はすでにとても重層的で複雑なものだった。その世界を把握するのに、自分の周りからちょっとずつその複雑に絡み合っている糸をたぐり寄せながら手がかりを見つけ、その先の世界を把握していくという方法をとっていたように思う。だから、その思考の順序をリアルに感じる。自分の身の周りで起こる小さな刹那的現象のなかに普遍的法則が生まれないかと夢みてしまう。
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