ENQUETE

特集:200912 ゼロ年代の都市・建築・言葉 アンケート<

勝矢武之

さまざまな建築雑誌の廃刊と一般向けの建築情報の増加

この十年で多くの建築雑誌が休刊に追い込まれました。その一方で、『casa BRUTUS』といった一般紙が建築を取り上げるとともに、個人住宅の建築家を一般向けの住宅誌が取り上げるようになりました。
ここには3つのポイントが潜んでいます。

1──建築の流行

この10年でインテリアへの関心が高まり、多くの一般紙が建築を取り上げるようになった事実が示すように、80年代のDCブランドの隆盛とともにもたらされた「衣」の向上、90年代のイタリアンの隆盛を中心とした「食」の向上に続き、ようやく日本において「住」の向上が達成されたことになります。これまでハイカルチャーでしかなかった「建築」が、ようやく人々に普及した「生きた文化」となったことは、言うまでもなく、望ましい変化といえるでしょう。こうしたメディアの存在もあり、使い手と建築家が、同じ言葉を共有し、対等に話して建築をつくっていくようになりました。そしてそれとともに、建築家もかつての「先生」ではなく、使い手と同じ土俵に立った、親しみやすい「カウンセラー」あるいは「医師・整体師」のような姿をとるようになったわけです。

2──「建築」の衰退

一方で、多くの建築雑誌が休刊に追い込まれ、建築家が建築を思想から語る場がなくなりました。と同時にWEBの隆盛により、さまざまな情報が瞬時に世界を伝播するようになりました。建築の情報はもはや過去のストックではなく、現在のフローがベースとなったわけです。こうして、書物を読んで、言語概念から建築を思考するといったアプローチそのものが弱体化することになります。さらに、Webのライブな情報があふれることで、歴史に対する関心も低下しました。結果として、建築が築き、囲い込んできたメタ概念としての「建築」の牙城がほぼ崩れ去ってしまいました。いわば、建築をその起源から考えるという垂直的思考のあり方が弱体化していったわけです。もはや一冊の出版物が建築を変えるという事態はほとんど起こりえなくなったのです。と同時に、建築をめぐる批評も、建築というメタジャンルの弱体化とともに、その力を弱めていくことになりました。

3──「デザイン」という概念の波及

こうした変化の一方で、流通したのが「デザイン」という概念です。この概念を基準に建築が語られるようになったことで、建築はもはやプロダクトなどの他のジャンルと同じ土俵で語られるようになりました。建築はいまや過去からの連続を基盤とする「垂直」な思考ではなく、同時代性を基盤とし、他のジャンルを横断する「水平」な思考から語られることになります。「デザイン」という一元化された物差しだけで建築が語られてしまうことは、一般への波及力というプラスの面と、建築という複雑なものが持つ問題を単純化しかねないマイナスの面があります。ただ、いずれにしろ、こぼれた水はもう盆には戻りません。建築をめぐる思考は今後新たなあり方を探っていく必要があるでしょう。
INDEX|総目次 NAME INDEX|人物索引 『10+1』DATABASE
ページTOPヘ戻る