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特集:200912 ゼロ年代の都市・建築・言葉 アンケート<

南後由和

建築作品

- 伊東豊雄《せんだいメディアテーク》(2000)
- SANAA《金沢21世紀美術館》(2004)
- 西沢立衛《森山邸》(2005)
- 藤本壮介《情緒障害児短期治療施設》(2006)
- 石上純也《神奈川工科大学KAIT工房》(2008)


《せんだいメディアテーク》は竣工が2000年ということで、ぎりぎりゼロ年代の建築作品に含めたい。石上純也、平田晃久、藤本壮介に代表される1970年代生まれの建築家の仕事は、いずれも大枠としては「ポスト・せんだいメディアテーク」の方向性を追求していると見なせることができ、ゼロ年代への橋渡しとなる象徴的な建築作品だと思われるので。
90年代がアトリエ・ワン、みかんぐみなど、ユニットによる建築家の活躍が目立ったのに対し、ゼロ年代は、個人の氏名を掲げたアトリエ系建築事務所の作家性が先鋭化した。《森山邸》は都市居住や集住の新たなかたちを、《情緒障害児短期治療施設》は離接的な空間が持つ冗長性や多様性を、《神奈川工科大学KAIT工房》は動的な秩序による、シームレスで連続的な現象の集積を内包した空間性の地平を切り開いた。いずれの建築作品も、情報化にともなう空間-身体感覚の変容と無縁ではなく、建築が要素間の「距離」を調整、操作するメディアであることを再認識させられた。
紋切り型の箱モノ批判が続くなかで、《金沢21世紀美術館》は、空間とプログラムの秀逸さによって、建築の持つ魅力が社会への伝達と結びつきうること、さらには「集客都市」への発展にも寄与しうることを示した好例だろう。

書物

- 中沢新一『アースダイバー』(講談社、2005)
都市における諸事象を規定する深層としての地形や地層に潜行し、東京の無意識をあぶり出す斬新な試みによって、新たな東京論の機軸を打ち出した。90年代におけるレム・コールハースのジェネリックシティが抹消した「歴史」の問題を、80年代の記号論による表層的なコンテクスチュアリズムとは異なる形で提示したともいえるだろう。

- 東浩紀+北田暁大『東京から考える』(NHK出版、2007)
ゼロ年代は、情報化、郊外化、新自由主義などを背景として、一方では、六本木ヒルズ、東京ミッドタウンに代表される都心の超高層が、他方では、タワーマンション、ショッピングモールに代表されるアノニマスかつ、圧倒的なスケールとヴォリュームを持った建物が都市/郊外に続々と出現した。これらの現象に対して、主に人文社会系では、東浩紀、北田暁大の『東京から考える』が、建築・都市論では、柄沢祐輔、南後由和、藤村龍至が提唱した「批判的工学主義」が応答した。

『アースダイバー』/『東京から考える』

メディア

- 建築批評誌の休刊、一般誌での特集増加
『SD』『建築文化』『10+1』と相次いで、建築批評誌が休刊したことは特筆すべきだろう。それに代わる動向として、カタログ的な『Casa Brutus』『Pen』などの一般誌で建築が取り上げられる機会が増えたが、すでにゼロ年代後半から低調気味であり、2010年代もこの勢いが続くとは思えない。

- フリーペーパー、ブログの台頭
建築批評誌の衰退と連動して、若手によるフリーペーパー、ブログの台頭が注目に値する。なかでも、専門誌とブログをつなぐメディアとして位置づけられた『ROUNDABOUT JOURNAL』は、シンポジウムや書籍『1995年以後』(エクスナレッジ、2009)とも連動しつつ、建築界に貴重な議論の場を構築した。

- 卒業設計イヴェントの隆盛
ゼロ年代ほど、学部4年生の卒業設計が、メディアを巻き込んでイヴェント化したことは、これまでなかっただろう。文系、理系を問わず、(総合大学で)学部4年生が注目される学部・学科は建築学科ぐらいかもしれない。

出来事

- 9.11
編集部からいただいた依頼では、「可能な限り日本に限定」ということだったが、ドメスティックな議論が多かったこともゼロ年代の特徴のひとつだった。9.11は、国内外を問わず、異質な他者に対する不寛容や排除の動きを加速させ、監視する/されることを欲望する監視社会の強化をもたらした。超高層と航空機の衝突という事件および、それのメディア上のイメージの反復は、事物のスケール感覚や「リアル」の所在の変容にもつながったように思われる。

- 耐震強度偽装事件
2005年の構造計算書偽造問題は、建築士/建築家を取りまく社会的現実の一端を浮き彫りにした。建築基準法や建築士法の改正が行われたという点でも、社会的影響力が大きかった。

- 巨匠の死
2005年には丹下健三と清家清が、2007年には共生新党を立ち上げ、都知事選、参院選に立候補した黒川紀章が逝去した。相次ぐ巨匠の死は、意識的、無意識的に、20世紀建築からの離陸を促したともいえるだろう。

言葉

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