ENQUETE

特集:200912 ゼロ年代の都市・建築・言葉 アンケート<

中川純

ゼロ年代の都市と建築はレムに始まりコールハースで終わったと言っても過言ではないが、日本に限って言えば下記の三点が印象に残った。

伊東豊雄《せんだいメディアテーク》(2000)

佐々木睦朗の功績は大きかったと思う。巨大な地震力に対して微細で多面的な対策を講じたこと、9.11のような不確定な破壊に対してリダンダンシーを備えた計画としたことによって、複雑性と合理性を兼ね備えたラチス・シェルとハニカムプレートという構造モデルを導いたのだが、むしろその結果に至る試行の膨大な反復によって構造設計というものを脱構築したことに敬意を表したい。脱構築的手法の利点のひとつにシステムの解放(新しい関係)がある。あるひとつのシステムを追究することによって、そのシステム内部に存在する逆説を発見し、その逆説を発見したことによる自己解体から導かれた結論を決定不可能性と呼ぶならば、この宙ぶらりんな決定不可能性にこそ他のシステムが応答する可能性が秘められている。脱構築された構造モデルは、意匠、環境、機能、構法、材料といった他分野への関係性に多大な影響を与える。《せんだいメディアテーク》はそのような新たな形式を発見したという意味においてエポックメイキングな建築であった。
伊東豊雄《せんだいメディアテーク》
引用出典=http://ja.wikipedia.org

ファスト風土化

語り尽くされた言葉ではあるが、ゼロ年代の日本の都市を語るうえでは外せない言葉だと思う。1960年代後半から日本全国でモータリゼーションが進み、地方の中心は鉄道駅を拠点とした商店街から国道沿いにシフトした。その後、政治と経済が複雑に絡み合う状況のなかで団塊の世代を中心に郊外化が進み、ショッピングセンターのような没個性的で大量消費を前提とした風景がつくり出された。地方のロードサイド文化は都市部との差異を縮小するために進化してきたが、そのモデルを都市部の再開発に適用することによって都市が郊外化しつつあるのが現状である。中谷礼仁はクリストファー・アレグザンダーのセミラティスを時間差をともなったツリーの重合体と見なした(中谷礼仁『セヴェラルネス──事物連鎖と人間』[鹿島出版会、2005])。ここで都市のファスト風土化に至る変遷を世代の断面=ツリーとしてとらえるならば、われわれは前世代が創り上げたツリーの上に新たなツリーを描かなければならない。世代の断面に見え隠れする「農村が都市を包囲する」という思想に手がかりはないだろうか。

Google

Googleは世界中の情報を整理することをミッションとした会社であり、そのミッションを遂行するために環境問題にも積極的に取り組んでいる。Google Earthは不動産会社のソフトウェアとして開発されたもので、ストリートビューをはじめさまざまな情報を集約しつつある。近年そのなかで日照シミュレーションが可能となった。当然、不動産の流れを汲んでの機能だが、Googleが環境問題に取り組むに当たって、今後次世代電力網を視野に入れたGoogle PowerMeterなども組み込んでいく可能性があり、情報を可視化することによる啓蒙的なヴィジョンにも注意を払うべきだろう。GoogleがCFD(流体シミュレーション)を初めとした各種環境シミュレーションソフトを買収し各種センサー類と共にアプリケーションに組み込むことによって、都市の環境問題はかなりの精度で可視化されるだろう。そのとき設計者は環境や運用に配慮した工学的な設計を余儀なくされる。政治や経済、主義といったものではなく、ツールが世界を変える可能性もあるのではないか。転換期には予期せぬところに時代を変えるパラメータが潜んでいる。

Google PowerMeter

INDEX|総目次 NAME INDEX|人物索引 『10+1』DATABASE
ページTOPヘ戻る