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特集:200903 30代建築家 アンケート<

乾久美子

●1

平田晃久《Kodama Gallery》

既存躯体の柱や梁の凹凸をさらに増やしてみればいいのでは、という発想でつくられた内装のリノベーションで、その方法論に共感しています。リノベーションが「新/旧」といった対比(これは一番簡単な例ですが)で両者を架橋するのではなく、とにかく新も旧もいっしょくたになってでこぼこの増殖へと向かっています。既存の環境を受容するだけではなく、多様さに着目して利用する。そんな時間軸を貫くような動的なアイディアを捻出する姿勢に共感しています。

平田晃久《Kodama Gallery》 提供:平田晃久建築設計事務所

石上純也《神奈川工科大学KAIT工房》

「構造を粉砕してみる」ことだけが石上さんの意図ではないでしょうが、《KAIT工房》の構造の考え方に大変に共感します。構造を集約して太くしてスパンを飛ばすのではなく、構造をこなごなに散らすことをしてみるという方法論は、不透明の柱からメッシュ状の柱への変換を果たした《せんだいメディアテーク》で発見されたことの一つだと思いますが、この構造の粉砕化はとても面白いことだと思います。とはいっても、《KAIT工房》でここまで(塵と見まがうまでに)粉々にしてしまったものができてしまったわけですから、これ以上何をすればよいのかはよくわからなくなっています。

石上純也《神奈川工科大学KAIT工房》 提供:石上純也建築設計事務所

長谷川豪《五反田の住宅》 藤村龍至《Building K》

長谷川豪《五反田の住宅》撮影:新建築社写真部
藤村龍至《Building K》撮影:新建築社写真部 
「既存の雑居ビルのようなものが束ねられてひとつの建築として利用してみる」といった「虚構のシナリオ」をベースにするとどうなるか、というようなアイデアから上記のような作品は生まれているのかなと感じています。新築という課題が与えられながらも、あたかも出来上がる建築がリノベーションあるかのようにも感じられる状態を目指すわけです。こうした(すこしひねくれた)方法論を採用することで、建築にかかわるさまざまな出来事や物事に対して動的に対応しようとしているところに共感します。《Louis Vuitton Kochi》の初期案(実現案よりもずっと規模の大きなものでした)は、そうした方法論に基づいてつくっていましたが、残念ながら実現せず。

藤本壮介《Tokyo Apartment》など

藤本壮介《Tokyo Apartment》
提供:藤本壮介建築設計事務所
「どんどん積む」という方法論の可能性に共感します。(近代的)合理性にしばられることなく暴力的に感じるぐらいの大胆さでどんどんつんでいくと、建築はどんな風にかわるのか、またプログラムに頼ることなく階に多様性を作り出すこととはどういうことなのか、そうした問題意識を感じる作品です。拙作《アパートメント I 》や《浅草のコンペ案》でもどんどん積むことでみえてくる可能性を追求してみたのですが、人によってアウトプットが違うのも「どんどん積む」面白さかもしれません。

中村竜治《Pinup》

「無意識の所作のかわいさ」みたいなものの追求に共感する作品、付箋みたいなものが沢山壁に貼られていて、そこに眼鏡をディスプレイするというものです。ここでは付箋を媒体として定着された無意識の行為が意外な美しさに満ちている、ということに気づくことだけを提出しているわけですが、その気づきだけを提出することで、デザインの行為を最小限に抑えようとする姿勢に共感します。こんなにきれいな作品になりませんでしたが、画鋲のわずかな向きの違いを利用することで、壁を装飾する方法(GOLDチタンのコンペティション案)を考えてみたことがありました。

中村竜治《Pinup》 提供:中村竜治建築設計事務所

●2
「先行する世代」だとあまりにも多くの方をリストアップすることになります。「先行する近い世代」と読み替えて回答します。

西沢大良

「多様性の受容方法」といった問題意識の存在を西沢さんの作品から明確に理解することができました。また、「表層」と「存在」という問題を架橋するという問題意識も彼から学んだのではないかと思っています。それ以上に、建築とは「存在」以外のなにものでもないといった明確な設計態度の(現代における)可能性を西沢さんから感じていて、そして、そうしたことが重要だといった考えに影響を受けていると思います。

アトリエワン(塚本由晴+貝島桃代)

多様性の受容という課題の重要性、都市と建築を架橋する方法などについてさまざまレベルで影響を受けました。さらに、建築を語る言葉の重要性についても学んだと思います。とにかく、すべてをリストアップすることが難しいぐらいに影響を受けていると思います。

西沢立衛

建築の壮大さとか破天荒さとかおおらかさみたいなものの大切さを西沢さんから学んでいるように思います。また、瑞々しくなければ「表現」ではないと言うような態度から、作家としての厳しさも西沢さんから学んでいるように思います。とはいっても西沢さんの影響は受けたくても受けられるような種類のものではなくて、どちらかというと憧れのような存在として私の中で位置しています。

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