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  . 鈴木明


INAX出版
2001年9月発行
定価:本体2000円+税
ISBN4-87275-103-5


























公営団地の洗面器
出典=Do Android Crows Fly Over the Skies of an Electronic Tokyo?


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「団地再生計画」というまじめなテーマの本である。
執筆者の名が「みかんぐみ」ということを知って「ははーん、何かあるな!」と思う人も多いはずである。みかんぐみとは建築事務所の名前なのである。一度スタッフが勢揃いした写真を見たことがあるが、パンチパーマにアロハ、スキンヘッド、そのうえ子供もいて、よく正体がわからない集団なのだ。しかし、風体で仕事を決めつけてはいけない。大きなビルや住みやすい住宅の設計をいくつも手掛けているのだ。でも、一筋縄ではいかない。事実、サブタイトルにあるように「みかんぐみのリノベーションカタログ」であり、「団地再生」に関するアカデミックな調査報告やいわゆる作品集というスタンスの本ではないことを初めから宣言している、のである。
さて、それではこの「カタログ」のユーザーとはいったい誰なのだろうか?
みかんぐみは、そこのところを意識的か、無意識的かはっきりさせていない。本のなかでは、語りかける相手を「わたしたち」といったり、第三者として「自分」と言ったりしていて、それが建築家としての「わたしたち」や「自分」なのか、あるいは団地(あるいは集合住宅)に住んでいる「わたし」なのかは、判然としないのである。そこのところは「僕の『団地再生――蘇る欧米の集合住宅』もヨンデネ」とお茶目な松村秀一は、しかしはっきりと言っている。
団地の「住み手に対してである」と。
その理由として、戦後一貫して、必死に建てるべきものだった住宅が、家族旅行やDVDやといった多様な選択肢のなかのひとつになった。だから、「『団地再生』をほかの物品やサービスと同じ土俵に載せ」、「投資した時に得られる生活上の楽しさや快適さを、はっきりわかるように伝えること、そして住み手のイメージに膨らみをもたせること」が大事だという。「ほかの大方の物品やサービスでは明らかにそれができている」という。もちろん、1970年代のマンション・ブーム以来の、大手住宅企業のコマーシャルは、このようなイメージ戦略を得意としている。しかしながら、これらの楽しげなイメージが「必死に建てるべき」住宅のあとに到達された、本当に楽しんだり、快適だったりする住宅である、と言いきれるのかどうかは疑問だ。その多くが資産的な価値や投機的な価値のみに、住み手のイメージを訓化することに邁進してきたのが事実だからである。
でも、「団地」にみかんぐみは固執する。
大都市化が進むなかで、団地の鉄筋コンクリートで高層化し、そのかわり敷地内周囲を緑化した(駐車場化しても)オープンスペースを含む環境が、ネガポジの関係で豊かで自由なランドスケープと映り、素っ気無くザッハリッヒでカッコよく見えてきた、という。そのうえ、子どもには開放された緑や自転車やローラースケートができるコンクリートのタタキが軒下に用意されているし、これはゴージャスなマンションには真似できない技なのだ、という。
では、このカタログに登場してくるさまざまなアイディアやデザインは、みかんぐみ(やや中年に差しかかった40歳手前がほとんど!)の幼年期に過ごしたノスタルジーに過ぎないのだろうか?
私は以前、ある公営団地の洗面器について思いを巡らせたことがある★1
それは南側に大きく開かれた窓につけられていた。顔を洗うにも、身繕いをするにも外の視線に晒される場所なのである。こんなプライヴァシーのない場所でだれが住めるか? と考えたとたん、電車の中で鏡をのぞき、ケータイでどこかの誰かと大声でしゃべる女子高生やコギャルを思い出した。団地の主体である、自らを再生産する核家族に代わって、公営住宅(団地)の中心はコギャルになったのか? と。
私自身、ある自治体の集合住宅建替事業にいくつも関わってきた。もともと公共の集合住宅は居住困窮者(若い労働力!)の一時的な援助という性格をもっている。が、その足下の借物の庭はうっそうと茂り、老人夫婦が暗い室内でひっそりと暮し、という光景も見てきた。団地内部のマイクロクライメートは多様化しているのである。コギャルは言い過ぎでも、SOHOの住人だけでなく、そんな老人世帯にまで「みかんぐみ」のカタログに込めた明るく楽しい主張が届くとよい。
そのためにみかんぐみのカタログには、さらなる増補が必要かもしれない。住民相互のコミュニケーションを顕在化させるような仕掛け(本書では触れられていないが、バイルメルメールではそのような試みがある★2や、住民自体を「みかんぐみ」化するような、教育プログラムである。後者はこの本のフォーマットに表されている。メニューのアイコンなど単なるウケ狙いではない、と考えたい。いずれファミコンやプレステに「みかんでGO!」のソフトが供給されることだろう。

本書より4アイテム
左上より時計回りに〈sports park〉〈market〉〈sun sun sun〉〈top gar〉

ところで、若い建築家がこの本を手に取ったとたん「やられたなっ」、と舌打ちしているのを目撃した。つまり、今後集合住宅のプロジェクトをやるときは、何をやってもこの「カタログ」からのモノ真似、「みかんもどき」として見なされてしまう、というのだ。
本書発刊後、10日ばかりで売行絶好調(出版社の言)の原動力は、若い建築家、学生、建築少年、建築オタクの購買層によっている、と私は見ている。事実、本書には、椹木野衣による本書のテーマとは直接関係のない「スーパーフラット」、「ユニット」といった最近流行りの批評用語を大連発する、彼らに向けた「みかんぐみ解題」が収録されているからだ。しかし団地リノベータ−は、この購買層とぴったりと重なる若者だけでないことを肝に銘ずるべきである、と私自身肝に銘じておこうっと★3

★1――Akira Suzuki, "A Washbasin at Centre-Stage: Planning Reversed by Gender", in Do Android Crows Fly Over the Skies of an Electronic Tokyo?, AA Publications, 2001.
★2――RCAのトニー・ダンらはバイルメルメールをメディア技術を用いて、ここの再生計画を行なっている。Presence: New Media for Elder People, Netherlands Design Institute, 1999.
関連HP=http://www.presenceweb.i3net.org//frameset.php3?_hoofdmenu=taking+it+further
★3――続きはhttp://www.telescoweb.com/のメルマもヨンデネ!