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都市の「シェルター」をリサーチするプロジェクト「Shelter Studies」。サンパウロ、カラカス、ボゴタ、ニューヨーク、ジュネーヴ、パリ、ロンドン、イスタンブール……世界の都市を巡り、そこに住まう人々への30のインタヴュー|Shelter Studies is project to research various 'Shelter' by Keisaku Fukuda+Robert Schmidt+Gonzalo Velez. They interview 30 key persons living in vulnerable urban space.|Powered by MT 2.65Syndicate this site

氏名: マルセロ・アームストロング
職業: 旅行業者
国籍: ブラジル
URL: http://www.favelatour.com.br/
収録日: 2006年10月17日


一見して、マルセロは人生の多くの時間をサーフィンに費やすことにした裕福なブラジル人のように見えるが、5分も話せば彼が流暢な英語を話す、教養のある人であることがわかるだろう。マルセロは緊張感のある面持ちで、サーヴィスを提供する起業家の面と、地元の学校へ資金調達しながら旅行者へはより包括的な社会的視点を与える教育者または活動家の面とのあいだを、周到に準備された言葉でバランスをとりながらインタヴューに答えた。
彼は、自身が主宰するツアーが、さまざまなポジティヴな影響をコミュニティにもたらしていることや、ほかの同業者に比べて、根底に流れる考え方やその枠組みがいかに異なっているかについて語った。しかしながら、15年前に高い志を携えてビジネスをスタートさせた彼は、ついに、完全なビジネスマンに変貌してしまったのだと感じた。そのツアーに参加したとき、30人の参加者がそれぞれ10人ずつの3つの小グループに分けられ、私たちはそのうちの一部となった。他の旅行業者のツアーガイドが、ロッシーニャの‘代表的な名所’を見物してまわるのに対して、われわれはリオデジャネイロにある、また別の観光スポットを見物するように誘導された牛の群れのようだった(違いは、入場料を払わなくて良い点である)。
もし、マルセロが本当に社会的な意味で教育者であれば、地元のコミュニティにとって本質的な変革を生み出すための彼の取り組みを改善し、別な方法を探し続けるのだと思う。例えば、旅行者と地元の人たちを、なにかの助けになるかたちで結びつけるような方法である。当初、マルセロは善意を持ってこのツアーを始めたにせよ、いまとなっては関係ない。なぜなら、いまの彼は、そんな気持ちを持っていないからである。彼がどう言おうとも、このツアーの実態は、私の個人的な体験とはなにかがまったく異なっているのである。

ファヴェラ・ツアーを始めるまえのあなたの経歴を教えて下さい。
旅行業界で約20年間働き、そしておよそ14年前にこのツアーを始めようと思ったのです。

どうしてですか?
リオについてより良く理解したい、あるいは異なった側面からリオを見てみたいと思っている旅行者がいると信じていたからです。リオのより物理的な側面を、また社会をフェヴェラを通して彼らに経験してもらうために。

あなたのツアーのポジティヴ/ネガティヴな側面は何でしょう?
はじめに私が行なったのは、ファヴェラに行き、そこに住む人たちにこのツアーをやってほしいと思っているかどうか尋ねることでしたが、彼らはとても好意的でした。こういった場所に真剣に関心を持ち、またそこでなにが起こっているのかということに興味を持つ人々を引率しています。こうした人々は正直なので、その多くが遠く離れた場所で、実際に関わることなく批評し、ファヴェラは「入ってはいけない」場所だと誤解しています。しかしながら、ツアーを通してなんとかこの誤解を解きたいと思っています。ツアーに参加することで、それまでメディアを通して見聞きしていたものとは違った場所として、旅行者がファヴェラを理解する機会を提供しています。問題を解決するための最初の一歩として、傍観するのではなく、すでに存在している問題を理解することが必要だと思っています。
もし人々がこのようなネガティヴな固定概念を持ち続けたとしたら、ファヴェラは永遠にファヴェラのままであり、永久に隔離された存在であり続けるでしょう。旅行者がその視点を変えることによって、ファヴェラに暮らす人にとって、その可能性が広がることになるのです。

その他に、なにかネガティヴな側面はありませんか?
現在、多くの旅行業者が金儲けのためにツアーを行なっています。新奇な観光スポットとしてツアーを行ない、ファヴェラに対してなんら社会的な関わりを持っていないのです。まるで、ビーチに行ったり、猿を見に行くかのように扱っています。彼らに尋ねたい。その背景や興味、そしてこうしたツアーを行なっていくうえでどんな努力をしているのか、と。こうした場所と、どういった関わりを持っているのかとね。私には、これは旅行者への「罠」のように感じられます。彼ら旅行業者は、コミュニティに対してなんらかの還元を行なうべきです。観光スポットとして扱いたいのであれば、そこに入るために対価を支払うべきです。旅行者を単にそこへ連れて行き、なにかものを買わせることで、地域の経済に良い影響を十分にもたらしていると彼らは考えているのです。これは十分どころか、悪くさえあり、彼らは旅行者になにかを還元する責任を放棄したままです。

あなたは、コミュニティになにを還元しているのですか?
旅行者がなにかを購入したり、意識を変えるチャンスを提供しているだけではなく、われわれは75〜80人の子供からなる、近隣地域の学校プロジェクトに対して融資を行なっています。ツアーがなくなってしまえば、この学校は閉鎖してしまいます。自律的に運営して行くための資金を、彼らは持っていないのです。われわれが教育に投資を行なうのは、それが貧困から抜け出す唯一の方法だと考えるからです。

昨今、ファヴェラのような場所に行くのは、ある種の流行のようにも見えますが、それが事実だとして、あなた自身はビジネスを継続していくことをどのように考えていますか? こういったツアーは、持続可能なものだと思いますか?
私は、本当に興味を持っている旅行者を魅了することに興味がありますが、それはすべての人がファヴェラに行くからではなく、われわれもまたファヴェラに行かなければならないからなのです。私は50人以上のメンバーでツアーを行ったことはありません。常々、小規模で個別のグループでツアーを行ないますが、ツアーに参加するほとんどの人は、われわれのツアーに関するガイドブックを事前に読み、学ぶことに真剣です。刺激的な旅行の一部分としてではなく、なぜそこにいるのかわかっていない人たちにとっては、それは大きなパッケージツアーのなかの、ひとつのポイントでしかないのです。私は、そこに行くことを強制したくはないのです。それが私の望むことです。「羊の群れ」のような大きなグループが不遜なのは理解しています。
自覚的ではない旅行者に、そこでなにが起きているのかということを理解してもらいたいのです。このツアーは、社会問題のショーケースではありません。少し異なった期待を抱いてツアーに来る人もいます。例えば、マシンガンを持った麻薬の売人を見ることができるだろうか、とか、私が思っていたほど貧しくないようだけど、もっと貧しい人を見れるか、とかね。われわれが提供しているのはこういった機会ではなく、環境に対してより賢明な理解を提供しようとしているのです。

ファヴェラとファヴェラ・ツアーと関連した、あなたの希望や夢を教えて下さい。
ファヴェラ・ツアーとしては、現状を維持したいと思います。毎日100人もの旅行者を引率したくありません。より少ない人数で、不幸にもそれ以上の人数がいた場合でも、うまくやっていければと思っています。
フェヴェラの未来に関しては、ツアーを通して、そのコミュニティに住む人々に変化をもたらしていると感じています。さまざまな場所から、彼らの生活を理解しようと旅行者が訪れています。
ファヴェラは経済の問題であり、残念ながらあまり良い未来を思い描いていません。なぜなら、貧困から抜け出す唯一の道は教育だと思いますが、政府は教育に投資を行なっていないからです。ブラジルの大統領は、高等教育を受けておらず、非常に貧しい環境の出身ですが、本を読まず、今後も読む気がないということを誇らしげに語ります。彼が示唆しているイメージは、自分のような人間になるためには本を読む必要も、学ぶ必要もないというものです。これは喧伝すべき適切なイメージではないと思います。15年以上に渡って、ファヴェラは少しずつ良くなってきましたが、ますます巨大化し、人口が増えてもいるのです。